隠花微温室:夢
2017-11-30T03:04:25+09:00
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画家 齋藤芽生の日記
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2017年8月の夢
http://meoflora.exblog.jp/25968710/
2017-08-08T01:34:00+09:00
2017-11-30T03:04:25+09:00
2017-08-09T01:35:29+09:00
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夢
8月2日
夢の中に出て来た大型CDショップが魅力的だった。ダウンロードするようになってからしばらく、CDを買うというわくわくする喜びを忘れてしまっていた。
夢のショップでは特に「ワールド」コーナーが面白く、民族音楽の古レコードや誰かの古い写真アルバムのほか、ロシアの朝食用コーンフレーク、メキシコの不味そうな巨大コーンスナック菓子(緑色のリボン型)、アフリカの芋を育てる園芸土なども売っていた。「水兵系ロック」のような音楽が店内にかっていたがどんな音楽かは忘れた。
「そうだ、この夏はラテン聴こう」と夢の中で決めていたので、現実でもそうしようと思う。
いつも感じるが、「魅力的な品揃えの店で買物する」夢は自分には縁起がいいというか、上り調子になるサインである。
8月9日 発熱、妄想
夢まで行かない幻覚のようなものが一日中、脳裏にうっすら続く。
高尾山薬王院の石段に穴があいていて子どもが覗きこんでいる。中には蛇滝に続く、おいしい水ながれる紫の水脈。赤倉のスキー場の雪が桃色、雪上に突き刺さるスキーのストックを目で辿ると赤い巨大なフラミンゴ。おいなりさんの竹の包みに薄緑のゼリーがだらしなく包んである。白い机。くすんだ青緑の雑居ビル街の屋上、貯水タンクだけが明度高い薄桃色。アメジストのようなだれかのでかい紫のかさぶたを手に持っている。
青い液が入ったビニールを何処かのエプロン主婦が私に渡して、台所の日めくりカレンダーを指している。祝日の赤数字。キティちゃんは黄色のキング、とお笑い芸人が言う。新幹線の切符が紺色で、白いちっさいフジツボが星のようにこびりついている。「ティファニー=チャミー」というくだらん米ドラマのような言葉が暗号で、解かなければいけない。スヌーピーが青いオーバーオール着て英語教室に通っている。そして高層住宅のエレベーターに乗って帰る。
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【花フラミンゴ】という町の喫茶店のお盆。
「夏蝉や 誰か私を助けてちょ」という句をひねっている。
CMYKの四色見本が束になった単語帳のようなのを持ち「これだ、これだ、こっこれだ。これだよ!これだよ!」と助手に向かって絶叫している。
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夢。藤桃色の日暮れ、やけに三原色な虹が、建物や地面の表面に光を落としている。
切れぎれに現れているそれを、テーブル用蚊帳のてっぺんを持って、虫のように捕まえようとしている。
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線画で描かれたけむくじゃらの脚の蝿イラストを丸く切り抜き、黒目の代わりに両目に嵌めて、代わる代わる両目を開きながら「右の蝿か、左の蝿か…」と言っている。
8月11日
地方の町の夜の駅で、ポンポン銃のスチロール製の弾を売っている。木箱にうす青く白く、牛乳飴のようである。誰も売り子はおらず、灯もなく、菊の鉢がいくつかある。
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山林のなかにある「大工学校」に居候として転がり込む。壁が開け放された木造の大部屋に通され、好きに使って良いと言われる。さまざまな木材のかけら見本や、工具の刃先を精密に描いた見本図など面白そうなものが捨ててあるので「棟梁、これもらっていい?」「これは?」「これ壁にはってもいい?」と子供のように訊くと棟梁がその都度「うーん、いい」「だめ」「それはいい」と笑いながら答えるが、良いと駄目の基準は全くわからない。が、何となく幸せである。多分棟梁は長いこと探していた兄である。
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朝、付け放しのNHKラジオで宮沢賢治の「永訣の朝」朗読しているのが聞こえるが、その現実の音声と夢とを行ったり来たりしている。
賢治は稀勢の里、とし子は遠藤である。遠藤が「あめゆじゅとてちてけんじゃ」と高い女の声で言ったあと「でもおら口先2ミリしがねえ蚕だし」と嘆く。遠藤のすがたが蚕として浮かぶ。観光バスの先頭座席にすわって蚕は首をふって嘆いており、確かにあんなボールペン先の玉みたいな口じゃあな。と思っている。「ああ、その口ではうまく露を受け取れまいに」と稀勢の里の賢治が、東北弁というより茨城なまりで詠嘆している。遠藤カイコの頰にはアミダラのように紅い点があり、稀勢の里カイコの頰には黒い点がある。
8月13日
白い絵本、からだ中が淡彩のうすむらさきの女がおりそれなりに神秘の活躍をしているが、もっと曖昧な白うすむらさきの女が出てきて、話の筋が混乱している。絵本の中途に冬の薄日のような光の穴があって「未完のサインだな」と思っている。
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温泉サーキットコンクールに出場している。50cm幅くらいの温泉水が川になって回遊している巨大なジオラマに、自分が巨岩の一部となって風景を面白くする、その姿を競うコンクールだ。出場者全員岩になるときは裸にならないといけない。都市対抗らしく東京チームの私はカタブツな見知らぬおっさん達と組だ。東京チームは皆話し合う気もなくおっさん達は個人プレーで黙々と勝手に裸になり、蹲ったり橋としてかかったりしている。私も服を脱いで岩になろうとしたら、何処からかうちの学生が「最後に花を添えなさいな」と制止してくる。焦るまい、とガウン姿で他の都市の様子をみる。妙高のホテルの仲居さんが一人でガッキガキの鉄橋を何役もこなしていたり、二十代の若い小学校の先生の男女が恥じらいながら彫像のように立ったりしている。私裸にはなったものの混乱し、まず息抜きとして各チームに「水景ジオラマ弁当(青い樹脂が弁当箱に盛ってある)」を配ろうとするがそこでピーっと笛が鳴る。弁当を両手に持ちハイ、ゴメンなさいよ、というようなばばくさいヌードの姿勢で私の岩の形は決定してしまい、悔恨する。
しかしこの夢の焦点はそこではなく、参加者のなかに若い頃の川端康成と横光利一らしき青年達がいて浴衣に懐手をして様子を見ており私は彼等の動向を非常に意識しているのだが、夢のメイン部分のそこの肝腎の詳細は思い出せない。
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2016年10月の夢
http://meoflora.exblog.jp/24711992/
2016-10-01T05:34:00+09:00
2016-10-29T11:20:41+09:00
2016-10-11T05:33:15+09:00
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夢
10月11日
夏目漱石先生の膝元で働いているが、暗号のような難題を出される夢。
「アイスとして」
と漱石先生は振り向きもせず書斎で一言いう。アイスとして?アイスクリームとして?と思案しながら、爪先ほどの面積に花札柄が記されたホワイトチョコチップの凍らせたやつを、黒い机の上に並べてみている。一つつまみ食いもしている。
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やけに黒絵具でアクセントを入れた白い雪山の油絵がある。空は赤い。絵の前で盲目の絵描きが鉛筆をしきりに噛んでいる。白い雪山の部分が次第に黒ずんでいく気がしてよく見ると、山脈の重なりが細かく一層一層増えていっている。絵描きが鉛筆をぎりっとやるたびに、ひと山脈増えるようだ。
瞬間、ベンっと強く三味線を弾く音とともに、部活の女子高生が「おはよー」「あーおはよー」と甲高い声で言いあう空耳を聴く。
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旅館の部屋のタオル干しを胴体にし飛鳥時代みたいな女髪したのっぺらぼうが、すっと部屋の隅から光って出てくるので、ビクッと身構えたが、「かつら干し」と誰かが耳元で言ったような気がして、ほっとする。しかし不気味なので、その奥の手洗いに入れない。
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雨上がりのグランドの地上20センチを低空飛行しながら、傷だらけのロウセキを持ち、人の足だけ灰色に塗りつぶしている。
10月17日
眩しいくらいの満月の夢。
電線に、赤、青、白、緑の太いロープが絡みついている。
赤と青と白が絡み合いながら結託して、月を縄にかけようとしている。緑はそれに加担しないのを見て「なるほど、緑は夜とグルなんだ。夜の闇は緑ががった黒だもんな。道理で」と思っている。
10月26日
折紙の巨大なこうもりが夕空を舞っている夢。
「上方をぎょろっと見つめながら微笑む真木よう子と中川翔子のちょうど間くらい」の女の顔面を、山折谷折りにした折紙。
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独りで倉敷を旅する夢。しかしこの倉敷はただ薄青いコンクリートの空地が広がるだけで、美観地区も美術館も蔵の町並みも何もない。
秋の柔らかい陽射しに弱々しく虫がないている。青ざめたコンクリートの広大な駐車場のような面積の上に、同じくらい巨大な面積のブリキの蓋が斜めになって被さっている「倉敷」なのである。そのブリキの蓋の際を延々と歩いている。
いつのまにか秋草の野などにでて、一軒の旅館で暇を持て余している。
荒れ果てた廃屋的な庭に巨大な「生け花」が放置されている。二メートル高ほどの立派な壷にいけてあるのだが、見栄えの良くない生け花で、バランスがよくなく今にも倒れそうである。右にせり出した木の枝に、薄青い鶏頭、白いダリヤ、色味の無い別個の花ばかりがぽこぽことまとまりなく咲いている。
部屋に戻るとグラスボウルに深紅の血のような液体が入れてあるのが置いてある。そうか、と思い先ほどの生け花の壷にその赤い液を注ぎ込む。すると、薄青い鶏頭は濁った薄赤に染まり、白いダリアは深紅の斑入りになり、所々に赤みが加わった。
これくらい赤みがなければ、と思いながら見ている。
10月29日
生ぬるい夜風の中、高台の屋敷の屋上にいる。
国籍も不明な、気取ったサロン客のような輩が、屋上から遠い夜の海を見ながら夕涼みしている。デッキチェアで月光浴をする男、私にはわからない言葉でシャンパングラスを傾け合い社交的な会話をする輩。
山を切り崩して階段状に建てられた数階建ての屋敷には、日本風空中庭園や硝子張り茶室などもあるようだ。しかし、よそよそしく寂しい環境である。
自分は誰とも心が通わず、わびしい気持で夜の港町を見下ろしている。
突然物凄くいやな爆音がして、港町の一部から、内臓や腸のようにずるずるとした変な赤い煙が空に引きずり上がっていく。
なにかとてつもない爆発があったらしい。真暗で見えなかった夜の海が、紅色のどろっとした液体に変わっていくのがわかる。その凄惨な色の海を見ながら、見知らぬ老人が「スペインのロバの血のようだ」と言って笑っている。
焦燥しながら同じ屋上にいる人間たちの顔を見回すと、みな先ほどまでのように談笑しながらも、生きているのに死人のような鉛色の体に変わっている。こいつらの存在に何かの感情を託してもしょうがない、という絶望に襲われる。
内臓のような爆発の煙は、瞬く間に空を覆う。私は、何か大事なものを喪ったんだと自分でもわかり、悲しい。最初の消防車がウーとサイレン音を立てながら爆心地に向かうと、屋上の観光客等が「オー」とパラパラ拍手し嘲笑の歓声を上げている。
夜風はまだ生ぬるく吹き、人工庭園の竹林を揺らしている。
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観光地の蚤の市で偶然見つけた様々なブローチを皆のお土産にしようと持ち帰ってきた。
鋳物、セルロイド、それぞれ違う素材の奇矯な形のブローチを、どれを誰に挙げるのか机の上に並べて決めていた。
しかしふと目を放した隙に、高校時代の級友のMが全てそれを持ち去ってしまったらしい。
皆の所にいくと、Mが「はい、旅行のお土産」と、したり顔で皆に配っている。
腹が立って、Mの首根っこを掴んで引き摺ってきて、何をやっているのか問いつめる。しかしMは悪びれるどころか憮然と憤慨した顔で、「私が自分で買ってきた土産を配っているだけなのに、何なの!?」と逆に反撃してくる。
押し問答をしているうちにわかったことは、私の旅や土産探しの体験ごと、Mの体験に本当にすり替わってしまったらしい。Mは私の細かい体験談まで皆に自分のことのように話している。しかも私の一番いやな自慢するような口調で、私の心にしまっていた旅の記憶を、変に脚色して人に公開している。
Mがブローチを配ったあと、数個だけ配らないものが残された。セルロイド製の、赤いユニフォームをきたソビエトの体操選手のブローチが残されている。
それをまだお土産を受け取っていない助教のT君にあげた。
「これなんなんですか」とT君は一瞬怪訝そうに笑ったが、私が物凄く不機嫌な顔つきで「T君のイメージだと思って買ったんだ」と言うと、「こ、このウルトラマンみたいなやつがですか....」とブローチに見入ったが、私のただならぬ表情から嘘と察し、ぐっと飲み込んでくれたようで、「ありがとうございます」と笑いながら受け取ってくれた。
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2016年9月の夢
http://meoflora.exblog.jp/24630280/
2016-09-01T12:03:00+09:00
2016-09-25T23:57:23+09:00
2016-09-01T12:03:17+09:00
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夢
2016年9月の夢
9月1日
爆弾を作る夢。
土をかたく固めた泥だんごを、爆発させたくてしょうがない。
夫に火薬や装置のことなど色々指導されながら、夜明けまで泥だんご爆弾を作る。
垂木を組んで、昔の石つぶての砲弾発射台の用のものを作り、こぶし大の匙の中に泥だんごを詰め、時限装置でポンッと泥だんごが飛びながら爆発する、というものを作った。
未明に展覧会の展示場に、それを設置した。作品なので、出来に満足してしげしげ見ているのだが、やはり逃げた方がいい気もして、逃げる。
夜明けの河原の砂利を必死で逃げているが、走りながら、別の爆弾も作りたくなる。
「粉ラムネの粉末とかココアパウダーとか、駄菓子的な爆弾を作りたい」と、一緒に逃げている夫にいうと、「さっきの泥爆弾の出来を見てからにしようぜ」というので、コソコソと会場に戻る。
泥だんごは壁に打ち付けられて、二十センチ四方くらい泥が飛び散っていた。誰かの作品を破壊してしまったりして逮捕されるかと心配していたが、このくらいなら、まあ、という気もした。
9月7日
私は刑事。何らかの巨大事件を捜査している。男性刑事陣は早々と徒党を組み、私と女性刑事の二人を無視して事を進行する。最初からそれは覚悟のこと。彼らは都合のいいように証拠や伝を独占する。
彼らとは違うルートで裏捜査をする私と、後輩女性刑事。
綿ぼこりの雪舞う、大河沿いの港町に、巨大な廃倉庫がある。証拠になりそうな散乱した痕跡。誰かが何かの薬品を段ボール箱に詰め替えたのだ。その段ボールでタライ船を作って後輩を乗せ、自分は残り段ボールを浮きにして、メコン川のような大河に泳ぎいでる。
「メオさん、私達はどこへ?」
後輩の船を押して泳ぎながら私は言う。「鍵は佐渡にあると思うの。だからタライ舟で行くのよ」
「メオさんは途中で溺れませんか」
「大丈夫よ」
しかし私の段ボール浮きは水を吸ってもう浮きの役割を果たしていない。
「○ちゃんは、新潟県の形を思い出せる?」
「どうしてですか」
「新潟県の洗濯ばさみが佐渡島の洗濯ばさみと噛み合ってる状態が、この抗争の構図なのよ」
「チーバ君の形なら正確に書けますが」「チーバ君…あの赤はいいよね」大河沿いにそんな赤の花の花壇が続く。
「新潟県はつまり地図上の狼なのよ」そして佐渡島は地図上の咬ませ犬…と私は極めてクールに推論を立てるが足は溺れかけており、必死で水を掻いている。焦る気持ちを隠すように「新潟ブルース」を鼻歌で歌いながら泳ぐが、サビのところで、それが「釧路の夜」だったことに気づき、歌いやめる。
9月8日
もう一人の私(もう少し年長)とペアを組み、「知人の実家を突撃してお蕎麦をご馳走になる」仕事の夢。ノルマで、老いたお母様に「今度一緒に蕎麦を食べよう、とのことです」という息子や娘からの伝言を伝えなければいけない。この夢では予備校のときに習ったM先生の実家で冷たいわんこ蕎麦をズルズル食べている。
年長の私は海苔を散らす係り、私は蕎麦をほぐす係りで、お母様に「あんたたち息がピッタリあっているわねえ」と褒められる。私は舌先でも必死でダマになった蕎麦を解し食べつつ、黙ってうなづく。世の人はもっと実家に帰り、両親と蕎麦を食べるべきだ、と痛感する。居間のテレビでは台風のニュースをやっている。老夫婦はそれを楽しそうに観て、バラエティでもないのに、時々笑い声を上げている。
9月23日
美術館バックヤードで滞在制作をしながら暮らしている。楽屋のようなところに10人くらいが布団一枚分のスペースにイーゼルを立て制作している。
同居者たちに俄かに掃除運動が起こり、みるみるうちに彼らの制作場所は美しくなっていく。それにともない彼らの作品も精度の高い絵や立体になり、次々作り終わる。
私の周りだけが無残に散らかり、足の踏み場もない。皆が蔑んで私を見、私の場所を足で蹴ってどかしてしまう。私はピンクと紺のラシャ紙で「犬用シルクハット」なるものを何百も作り散らかしているが、失敗作に自分自身が埋れている。
堕落した私は、皆から放置されている。しかも、着るものがなく裸で、パンツ一丁である。
私の役割がいくつかある。誰かから呼ばれ、トイレの洋便器の水を私が見つめると、水が凍る。何度か、凍らせることを要求される。
もう一つは、暗がりの雑魚寝布団のなかで咳をしている人のそばに行き、じっと布団に手を当て介抱する役目だ。しかし、誰からも感謝されない。
耐えかねて、外に出た。
隣に、ボロボロに崩れ果てた民家の納屋がある。屋根のふちに豪華な赤いフリンジの糸が出ていると思ったら、火だった。納屋は、燃えているのだった。内部は今にも爆発しそうなほど、ドロドロに赤い炎が揺らめいているのに気づき、ぞっと肌が粟立つ。鶴の羽で葺いたという、翼のような廃墟の屋根のふちに、サーっと手品のように火が走っていく。翼が燃えて溶けていく。火は炎の色より暗い、紅色のLED光のように暗く不気味だ。鶴が怒りに燃えているのだと悟る。
恐怖感で声も出ぬまま、必死でそこから離れる。裸でむき出しのわりに、体の内部が不自由で、何故がうまく手足が動かない。やっとの思いで道の角に自分の身を投げ出して、火を避ける。後ろで、今いた部屋が爆発するのを感じる。走れないので、転がりながら逃げる。
涙にくれながら這ったり転んだりしていつの間にかたどり着いた先は、細長い常緑葉が人の髪のように生い茂る、ひたすらそれだけの一面の野だった。ポカンとした広がり、原野の緑の髪がさわさわいうなかで、一人、安堵に喘いだ。
野の真中に、同じ緑の髪の塊が幾百もついた糸杉が、天に届くほどの高さで立っている。美しかった。それもたださわさわと風に揺られていた。静かだった。
9月25日
「二匹の鯉」の姿が超絶技巧的細密で刷られている見慣れない収入印紙に、「オッ」と思っている夢。
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2016年8月の夢
http://meoflora.exblog.jp/24597591/
2016-08-01T07:29:00+09:00
2016-08-29T01:04:25+09:00
2016-08-16T07:30:15+09:00
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夢
8月6日
研究室の水槽、丸い口でおとなしくコケをお掃除していた水玉模様の魚プレコが死んでしまった。
もの静かだが存在感あったので、いなくなって寂しかったが、銀ちゃんが「新しい仲間が増えました」と云ってきたので新しいやつが来たのだろう。今日逢うのが楽しみだ。自分で思う以上に楽しみだったのか、寝てから夢に見た。研究室の奥の壁全てが巨大な水槽に工事されている。水中バレエのようだ。部屋も青暗い。ボー然としてる目の前を、巨大な大王イカがひらひら泳ぎ過ぎる。「銀ちゃん....今度はイカかい...」と大胆な選択に驚いていた夢。
8月14日
古い町並を旅している夢。血膿のように赤い巨大なフシグロセンノウが咲き乱れる、水色ペンキの家。
隣は「昔はモテたの研究所」とブリキの看板を掲げた木造の廃墟。その向こうは馬鹿でかい筆字で「片銀カタ会」という看板の古い硝子戸の老舗。局番一ケタ。
8月16日
今夜の一瞬の夢の数々。
紺地に、虹色の巨大な蝶が卵を産みつけている図柄が染め抜いてある大漁旗。
茶色に、蜘蛛の巣に引っかかった薄茶の薔薇とトンボが織り出してある着物。
油画ギャラリーの硝子戸の内が暗い水飛沫の苔むした滝になっていて、硝子の手前に、カーネーションが混じった門松が五体並べてある。
薄灰色の着物の裾模様に、白い灯台と島影、巨大なヨモギの葉の上を航行する白い船。
マリモの緑の球体要素だけで出来ている盆栽を、すらっとした黄色い実写ドラえもんが手入れしている。透明な水底に転がる「猫の顔が浮かび上がるマリモ」の写真が、主婦雑誌のグラビアに載っている。
50くらい眼窩の穴があいた骸骨の穴の一つ一つから、筆字で書いたニコニコ顔の小学生人形が顔を出している。
節分で配る赤鬼のお面と、赤い四角だけで目鼻なしの「東大赤門の神」の曖昧なお面が、二つ並べて置いてある。
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電車での夢。
四角いスイカみたいに四角く整形された深紫と白の巨大菊がたくさん出荷されていく。箱詰め、川流し、たぶん多摩川の夕景。
8月20日
先日の夢でみた花はフシグロセンノウじゃなくてノウゼンカズラだった。いつも間違える。
漢字でイメージすると間違えないのか。節黒仙翁、凌霄花。
そして水色ペンキの家に赤みが強いノウゼンカズラの咲く家を実際、日間賀島で見て、正夢なので嬉しかったが、例の如く夫に、正夢って言っても…と言わんばかりの呆れ顔をされた。
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ダンボールにマジックですずめのイラストを描いた巨大看板が、フロントグラスに斧のようにブッ刺さっている軽トラック。それが寒々とした白い道路を爆走していく夢。なにかの戦車らしい。
二両編成の毛虫が、色褪せた黄昏の平野をうねっていく。ローカル線だな、飯田線かも、と思っている。毛虫の車体は白地に花柄で、背面だけ黒茶のフサフサ毛を生やしている。毛虫だがブランドものの婦人ダウンパーカーみたいだ、と思いながら平野を見下ろしている夢。
8月25日
名高い日本画家の大邸宅にいる夢。
名高いが私は初めて存在を知った。その画家の顔はある実在の学者に瓜二つだ。大邸宅と言っても美術館のようだ。どこかの国立美術館の展示室くらい巨大な、磨き上げられた板の間がある。奥は一面硝子張り、映画のスクリーンのように森林風景が見透かせる。暗めにグラデーション入ったスポット照明の中に、巨大な生け花のシルエットがいくつも浮かび上がる。
私だけではなく多くの人が、美術作品のコンペを受けるために、その大邸宅に滞在している。皆、思い思いの画題や材料探しをしようと、そのモダンな美術館のような家を徘徊する。
私の手には一枚のファブリアーノ紙があるだけで、画材も持っていない。アイデアも浮かばない。子供みたいに靴下で摺り足スケートしながら、よく滑る板の間を巡回するだけだ。
広大な板の間の中央、磨き抜かれた木材で、5センチ×5メートルの細長さに仕切られた水樋が、何十本も設置されている。
そこには蛍光を帯びた綺麗なパステルカラーの汚泥が容れられ、それぞれの樋の中で干上がっている。一色一色がとても魅力的なラムネや駄菓子のような色なのに、何となく気味の悪い感じもある。レモンイエローのメレンゲのような生乾きの泥が、私の指についてしまった。慌てて腰の当たりになすり付けて黄色を拭う。
有毒色素、食品添加物、粗悪なプラスチック玩具、薬品などを粉砕し泥にしたものを水干絵具にしておく「現代毒物絵具」の樋らしい。毒のカラフルさ、水干絵具という形態、その装置に魅かれて、私はその5メートル四方に括られた樋の周りを歩いて、何度も覗き込む。
コンペの締め切り時間が迫るが、何も手に着かない。ふと別の板の間を通ると、ティンゲリーみたいにキネティックな「動くイーゼル」という誰かの作品が展示されていた。カチャンカチャンと動く鉄の装置の上に、私の十四点組の【毒花図鑑】を勝手に飾られている。
勝手に使いやがって、と腹がたつ。が、踏切音や汽車のポーという音のたびに、私の毒花の絵たちが、電光掲示のように様々に色を変えたり点滅したりする。
「作者の手を離れて、絵たちも勝手にいい気になってる」と思うと、尚更腹が立った。
自分はまだ水彩紙一枚だけを握りしめたまま、何も出来ないでいる。
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いつの間にか美術のコンペでは無くなっている。
俳句をひねり出さなくてはいけない。自分の句なのか他人の句なのかわからない一節をずっと弄んでいる。「恋の如く 色移りたる ◯◯かな」の◯◯を考えなくてはいけない。平安時代かなにかの色が退色した布の調度品の名称をそこに入れたいのだが、そもそもそれが何なのか自分でもわからず、考えている。
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俳句も投げ出して、邸宅の裏庭らしき森林に独りでどんどん分け入っている。
土砂崩れの痕跡なのか、倒木や落葉や堆積物が散乱した沢がある。
そこにセメントの簡易な橋が架かっている。ぼこっと分厚く、しかも見事に橋の角度が斜傾している。
その橋の上に、古いドライブインのような空き家が傾いたまま乗っかっている。焦茶色の壁、青い不均衡な台形に貼付いた「片流れの屋根」の、いまの私がちょうど探しているような、いい形の家屋だ。辛うじてバランスを保っているが、どこでどうずり落ちて崩れてもいいほどの不安定さで、斜めの橋に乗っかっている。
「これだ。この精神だ.....きらびやかな絵具、すまし込んだ俳句なんか、どうでもいい。自分にはこの家がある」と、奇妙な感慨を持って、その家を観察している。
8月28日
電車の座席の向かいに、むずかって泣いている小さな男の子が居る夢。
執拗に泣いているのを、若いお父さんが困ってあやしている。「ほんとになんで泣いてんの、どうしたの」それだけなら微笑ましい光景でもあるのだが、私はじっとり冷汗をかいている。
なぜなら、朝から今まで、この父子にずっと行く先々で出会い続けているからだ。男の子は朝からもう、地獄にいるような搾り出すような声で泣いている。涙も枯れ、もう唸り声しか無いような泣き方で、何かを頻りに呟いている。お父さんはずっと困って「一体何を言ってんの、お前は」と訊き続けている。
遊園地プール、ショッピングモール、書店、舗道...きょう自分が行ったいろいろな場所を思い返してみるが、ずっとこの父子に、つきまとわれている。
男の子はとくにこちらの存在が理解出来ているようでもなく、私が凝視していても目が合うわけでもない。かと言って父親が私を追いかけているのでもなく、子より更に、通りすがりの私など眼中には無いようだ。なのに、何故か永遠にこの父子がついてくるような気がする。
電車が上野駅に着いた途端、私はかなりの早足で階段を駆け上った。後ろから、更に大きくなった子供の泣声が追いかけてくる。「お...おくと...おく....ぱすと...とば....おぱ...」
階段の中途で閃光のように気付いた。
あいつは、オクトパス、と言って泣いているのだ。
朝から晩までずっと囈言のように言っている言葉が、父親もわからずに何百回も聞きただしている言葉が、「オクトパス」だと自分には理解出来てしまった。理解出来た途端、動悸や冷汗がなお一層酷くなってきた。
エキナカの本屋に逃げ込もうとしいたが、店頭に「たこちゃん」というキャラクターのタコのイラストののぼりがはためいているので、慌ててきびすを返した。別の方向には、たこ焼き屋がある。うおや一丁もある。
何故か今日は、いつものパンダグッズではなく上野中が、タコグッズのフェアーをやっている。
薬局ならば、と思って、ひんやりした白い棚のある漢方薬局の棚裏に逃げ込む。まだ遠くでまるで自分を捜すかのように「オクトパス!オクトパスーッ!」という泣声が響き渡っている。
薬局は静かだ。水色、緑、茶色の硝子瓶が恭しく置いてあり、そのどれにも薄玻璃の漏斗が刺さっている。ここなら大丈夫だ、オクトパスを忘れられる。と、喘ぐ息を何とか鎮めようとしている。白衣の薬剤師の男が不思議そうに、息切れしている私を見つめて、今にも話しかけそうにしている。話しかけないで、と思っている。
目前の棚に、大小様々な正露丸の箱が陳列されるのを見た途端、タコが正露丸のテーマをラッパで吹き鳴らしているCMを思い浮かべてしまい、ヤバい、と思う。絶対に、あの父子は私を見つけ出すだろう。
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2016年3月の夢
http://meoflora.exblog.jp/24260678/
2016-03-23T04:54:00+09:00
2016-03-31T05:47:05+09:00
2016-03-30T04:54:23+09:00
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夢
3月30日
小豆島の海辺の隠れ家にいる。
明け方、もう白い朝の光が小さな窓から漏れている。
海の方から大きな鳥が翼を広げて飛んできて、大きな音を立てて屋根に停まる気配がした。
一羽ではない。そして格闘している。
大きな豚か体操器具の軋みのような酷い声を立て、翼を硝子にぶちつけながら決闘しているのが、窓の隙から見える。
鳥の羽根の裏側を見ると、始祖鳥のように巨大だ。
一匹は色からすると、紅色のような曙色のような、あれはフラミンゴだ。
小豆島でフラミンゴ....! と戦慄する。
他は大鷲、オオバンのような嘴の大きく派手な鳥、そしてなんと緑いろのケツァール鳥のようだった。
バサバサ、ギシギシ、ギョエギョエと、影が朝を破壊していく。
珍しくてこわいものは、息が停まるほど美しい。
何故か鳥を虫のような気持で見ている。虫よりもこれはすごい場面なのだ、と自分に言い聞かせている。
寝ぼけ眼のまま携帯で写真を撮ろうと起動するが、慌てたので逆に消してしまい、もう一度起動させている間に鳥たちは白い空の彼方へ行ってしまった。
鳥が行ってしまうと同時に、サーッと驟雨の音がした。
ああ、こんな雨の中で死闘していたのか、と思った。
ついさっきのことだ。手が震えながら夢うつつで枕元のPCを開くまで、全く夢だと思っていなかった。
3月28日
高速バスで高速道路を風のように走っている。
空は晴れているが白い薄霞がかかっている。
ものすごい高度を走っているので、俯瞰が涙が出るほど綺麗だ。それでもまだ高度が高くなっていく。
ふと前を見ると、巨大なジェットコースターのループの中に軌道が組み込まれている。
苦手だからどうか宙返りはやめてくれ、と祈っていると、回らず、ふうっと下りを急直下していく。
白く淡い森や、遊園地や住宅が光りながら、一気に近づいてくる。
怖いけれども、なんて美しいのか、と思った。
夢の中で夢とわかり始めていて、こんな楽しい夢を見るなんて、調子がいいぞ、と思っていた。
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仮眠景24・山岳寺院
http://meoflora.exblog.jp/21702551/
2014-02-19T15:29:00+09:00
2016-03-04T16:24:27+09:00
2014-02-19T15:29:57+09:00
meo-flowerless
夢
寝惚けながら手洗いに立ったら、そのまま道に迷ってしまった。
アジアのどこかの国の、夜の小路を彷徨っている。
靴下姿で、目覚めた時の半眼が張り付いたように直らないまま、異国に揺らめき出てていってしまった。
道の果ての山岳寺院の灯以外は、歩き続けられないほどの暗闇だ。
その遠い寺院から、何故か間近な感じで、異国的なお経と香気が流れてくる。
「たった一人で逃げよう」と願ってさっき眠りについたのだから、早くもその願いは叶ったんだ。
でも、取り返しのつかない闇に落ちてしまった気がする。
いったんこの眠い瞳を閉じれば、それが本当の死に直結している、のをどこかで認識している。
足下に感じるのは、植民地時代製らしき煉瓦の石畳。
手探りに触れるのは、街路樹の柔らかい柳だ。
けれど暗くて見えない。ようやく寺院の階段に辿り着き、一歩一歩登ってゆく。
中腹の暗い中門でいったん、左右の細い階段に別れる。ひと一人通れるくらいのその細い階段のところだけ街灯がついている。
そこに、目の覚めるような極彩色の民族衣装を着たイスラム系アジア人の女の子が、乞食のように立っているので、ぎょっとする。
その奥には母親らしき女がいて、弱々しく笑いながら道を開けてくれたので、会釈をした。
やがて階段が合流すると、ぽつぽつと老人らしき人影が同じように、階段を上がっていくのが見えた。
こんな深夜にも観光客がいるのだ。皆、静かな信仰を抱いているように思えた。巡礼なのだろうか。
頂上は、簡易な観光展望所のような広場になっていた。
広大な吹きさらしの講堂の下には、人々が憩うためのベンチやひしゃげた折りたたみ椅子があちこちに放置されている。
私の視界はもう盲いて暗いのに、白檀の香りだけが五月の若葉みたいに軽やかだ。
手探りで一つの椅子を探した。高級中華料理屋の椅子のような布張椅子で、朧に見えるその布は、薄緑の金襴織りだった。
すぐ耳元で老人が仙人のように談笑する声が聞こえたので、驚いて椅子を少しずらして距離を開けた。
講堂の一番奥は、何かの本尊のある修行場らしく、赤い美しい光が漏れている。そこだけははっきり見えた。
座椅子が積み重なる板敷きの部屋の奥に、薄緑と朱色の豪華な障壁画がある。
と思ったら、先ほどまで自分が彷徨っていた町の下界の実景だった。
朝焼けに照らされて、絵のように平面的に見えていたのだ。緑のアクセントは道の柳だ。
柱と柱の間に開け放された引戸のあいだから、明け方の海が見下ろせた。
老人客たちは、それぞれ思い思いに海を見下ろしているようだった。
「ほう、幸運だな。今日は戸が開いていて、ホラ、海が見える」
と誰かが呟いている。いつもは、この海景を見ることはできないらしい。
目を凝らせば凝らすほど、赤い海の向こうの建物や島影に、自分の眼のピントが合わなくなってきている。狂おしいほどに眠くて、倒れそうだ。
宿を取っていたような気がするから、山を下りようか、と一瞬考える。
が、女独りが重い身体で暗い街に繰り出し途中で倒れでもしたら、烏の群れに犯され殺されるのだ、ということをどこかで聞いた気がするので、やめた。
とにかく眠っているのを誰かに知られたら、私は死ぬのだ、という気がしてきた。
もう殆ど海は見えていないのに、必死で風景を見ている振りで、崖縁に立っている。
眩暈のなか必死で、海の色やいくつもの虹や、さっきの女の子の極彩色の服など、鮮やかなものを見いだして目を覚まそうとする。
すぐ足下の海峡で、大きな船の霧笛がぼうっと叫んだので、物凄く驚いた。
あ、船が見たいと思って目を凝らすのだが、暗い赤い影が朧に動く気配がするだけだ。
その霧笛が無性に悲しい。
自分がどこか誰とも繋がらないところに送り込まれる合図のように思え、怖くもなった。
講堂で説教を聞くふりをして、誰にも気づかれないように、仮眠をしよう。
眠っても、起きて目をさませばいいのだ。
薄緑や黄色の蓮の造花が辛うじて見える休憩所で、椅子を探し当ていよいよ眠ろうとする。
誰かが海に向かって物凄くいろんな色の紙テープを投げているのも、卓上に水仙とスイートピーが匂っているのも感じるのだが、もう感覚の限界である。
「あのう」
となんとなく聞き覚えのあるような二、三人の声がした。どうも自分が知っている学生らしい。
もう閉じて動かなくなった目を向けながら、
「何しにきたの、こんな国まで」と自分は言っている。
一人は困り果てたような声で、いや、先生がもう駄目そうなので、自分が代わりに入学希望者の面談をしていたんです、と言っている。
男二人、女一人がそこに居るらしい。
心の目で見ると、何となく赤や黄色の繻子の僧服を彼らが着ているような感じがする。
「これ、先生が落とされたんじゃないですか」
と一人が、何かモコモコした布のようなものを私に渡した。
必死で目を凝らすと、少し視界が切り開けた。
学生たちはもういなかった。
手に持たされたのはグレーのフランネルの表紙のついた手帳だが、紙部分は殆どなく、布玉のようなものだった。無数の糸屑が布玉に付着されているのが、文字の印字の代わりなのだった。
ああ、この手帳には自分の大事な脳裏の記録が全部記されているのだったと思い出すと、少し眼が見えてきた。
上を見ると虹色のリボンの先にいくつもの椅子が結わえ付けられ天井から下がっている。
天井の模様は、書き散らした世界中のフォントによる文字書きと、様々な花の絵だった。
だいたい百二十色くらいのマーカーセットで描いたようだ。
先ほどの学生たちもその仕事に従事していたのかもしれない。
もうベッドに帰りたいな、こんな夜の闇の底はやはりいやだ、と薄々思っているのに、
「涅槃を選んだんだから、駄目」
とまだ、心の声が囁いている。
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仮眠景23・花言葉
http://meoflora.exblog.jp/21675107/
2014-02-16T08:48:00+09:00
2016-03-04T16:24:27+09:00
2014-02-12T04:23:12+09:00
meo-flowerless
夢
白昼の体育館の壁がうららかに日を照り返す。
体育館の中では一般公開現代美術講座のようなことをやっている。
言葉によるグルーピング、というのをその先生は重視しているようだ。
先生は私たち学生の持つそれぞれのキーワードを紙片に印刷し、体育館に並べグルーピングマップを作っているようだ。
私の名札は他人より大きくて、おそらくは重視してくれてるんだろう。
しかしキーワードカードに、新刊書のようにわざわざ銀色の帯が付いてて、そこに仰々しいキャッチフレーズがある。
『ふと……きづいたんです。私にとっての、花ことばを…』
そんなのは私が言った言葉じゃない。
でも先生はその場所に立ちながら、聴講生に説明している。
「この人は花言葉においてのみ、特別に抜きん出ている。だからこのグルーピングの山に位置する」
違うんだけどな、と思っていても、私は真昼の体育館を外の茂みから覗いているだけである。
繁みは、燃えあがるような桃色の花の海である。
………
何か言葉を発しても声にならず、ただ赤や白の炎が吹き出しのように、自分の顔の横に浮かんでは消える。
炎は瞬間でフリーズし、魚のベタのような形だ。
いちいち強制修了ボタンを心で押さないと、その炎は消えない。
………
雪国の、もう閉ざされた土産店の暗い店先には、天井近くまで底上げされた寝台がある。
自分は病んで、人知れずそこに寝付いている。
雪解けの眩しい通りを人が歩いていく足が、こちら側からは見える。
けれど外からは、私が動けないでここにいることを、見ることはできない。
天井から、登山用の杖が鈴などと一緒に下がっている。
自分は辛うじてその柄を掴み、弱く鈴を鳴らして、懐かしい友を呼ぶ。
助けて、と願っている。
何度も鳴らしているうち、やっと懐かしい友から留守電が入る。
「◯◯です。ちょっと午前中に用事が入ってしまったので、それがすんでから向かおうと思います。何かありましたらお電話ください。失礼します」
その声は懐かしい。
けれど、暗がりの中でその他人行儀な言いざまを聞いて、体中がなおさら無力になっていった。
……
見知らぬ少年の部屋に泊まる羽目になり、なんだか朝まで眠れなかった。
朝なのに、カーテンが青過ぎて、部屋中が冷たい雨夜みたいに暗い。
カーテンの影に、子犬くらいの大きさで黒赤マイカ入りの光る塗装の車の模型が、今にも発車しそうに待機しているのが、怖くてしょうがない。
.......
早慶受験の予備校で、狂った講師が机につききりで、
「肉塚息遣い、って言ってみろ!肉塚息遣いってホラ言え!」
としつこく迫る。
最後の視界に残ったのは、十九時の時計だった。
.......
赤と白の波がせめぎあうようにして満ち引きを繰り返し、
そのうち波打ち際がどこにあるのかわからなくなっている。
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仮眠景21・殴り雪
http://meoflora.exblog.jp/21591137/
2014-01-20T06:21:00+09:00
2016-03-04T16:24:27+09:00
2014-01-20T06:21:34+09:00
meo-flowerless
夢
冬の閑散とした海辺の住宅地の駅前を歩いていた。
海岸沿いに曲がっていこうとするその角、大型の真白なバンが、カーステレオ音楽の大きな音を立てている。
煩いな、と思ってそっちを見た。
すると、海に面したドライブスルーに入ろうとしていたそれが、私の一瞬の視線を察知するかのように、進路を変えゆっくりバックし始めたのだった。
相手はスモークガラスの、運転手の見えない車だが、確実に目が合った感じがあった。
私は何気なくきびすを返し、駅の方に戻り始めた。白い車がターンして、ゆっくり私の後方に回り始めた。
付け始めたのである。
心臓がばくばくする。走り出すわけにも行かない。心当たりは無いから、変な動きをしたくもない。
途中の路地でくるっと左折して車をまいた。車の音楽はすーっと通り過ぎ、駅の方へ行った。
まいたあとは、死物狂いで住宅街を走った。次第に泣けてきて、足も縺れるようだ。
あの車のカーステレオの音楽がまだ街のどこかに響いているが、それはゴミ車のオルゴール音楽のようなものに変わっている。
執拗に、オルゴール音楽の松任谷由実の『守ってあげたい』を鳴らしている。
高台にある公園裏の、高い石垣に沿った植え込みに逃げ込む。
案の定、追手の足音が車から降り、あっちだ、こっちだと怒号をあげながら近づく。
やはり私は、意図的に狙われているのだった。
植え込みを決死の思いで這って、幸いにも、公園下の家の二階窓から侵入して逃げ込むことができた。
二階の大きな部屋には、誰もいなかった。
大きな日当りのいいフローリングのワークルームがある。
白い壁には、描きかけの誰かの風景ドローイングがある。
青い海と島々、この街を描きたかったんだろう。
ただそれは無惨に書きなぐられているので、吐物のような風景にしか見えない。
床の上には、青い箱船に、廃材でできた高台の街の模型が立ち上がっているオブジェがあった。
竜巻のように家の模型を巻き上げながら屹立するオブジェが、舟に突き刺さって立っているのだ。
この海の町の何らかの模型を誰かが作ろうと思ったのだろうが、だんだん制作者が狂ってしまったらしい。
自分の姿をワークルームの鏡に映して、きゃっとした。
何故か自分は、ショートカットの学生だ。
そしてこの鏡の中の顔に、よく似た顔立ちの子が、ここ一週間姿を隠していることを急激に思い出した。
あの白い車、その子の父親の生業絡みの関係車両に違いない。
その子と間違えてまだ命を狙われているのか、何らかの身代わりのために利用されようとしているのか、状況が読めない。
目を閉じて更に何かを思い出そうとしたら、その子が逃げている姿が脳裏に見えた。
Pコートを着て公園の落葉の中を、無表情で逃げているのだ。
そして、公園内のかなり高さのあるコンクリートの階段を、その子が急に飛んだ。
その子が飛び込んだ先は、なんとある古本の頁の中なのだった。
姿自体は、この世から忽然と消えたのだ。
その古本は何か、このやばい件に関するいろいろな秘密を解き明かしているらしい。
ワークルームの中で日が射している本棚をあさり、必死でその本が何なのか探す。
その古本とは、何なのか。
物凄く色褪せた宮沢賢治『春と修羅』か、伊藤整『雪明かりの路』のどちらかだ、と結論に達する。でも、彼女がどちらの本に何の理由で、どの字句に化けて吸い込まれたのか、わからない。
ドローイングを見ながら、解決策を考えている。
誰かがこの海の町のドローイングと模型を作りながら狂っていったことの意味も、考えなくてはいけないようだ。
その時だった。
突然外で十四時の町のオルゴール放送が響き渡き渡った。
ユーミンの『守ってあげたい』のオルゴール音楽だ。先ほど白い車もかけて流していた。
驚いて、瞬間的に首下を隠しつつも、そっと窓ガラスの外を窺った。
物凄い曇天に、短い逆さ虹が出ている。
この気象条件が「殴り雪」という殺人的な雪を連れてくるのを、知っている。
「殴り雪」たちに降り籠められたら、もうおしまいだ、と戦慄する。
窓ガラスから少しでも顔なんか出そうものなら、「殴り雪」によって頭部を裁ち落とされるのだ。
殴り雪を察知したら、彼女が逃げこんだはずの本は『雪明かりの路』の方だと確信した。
その本の中から、おそらく「守ってあげたい」と言う字句を探せ、ということなのだ。
その字句の暗号をひもといて、本物のショートカットの彼女を、召還しなければならないのだ。
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仮眠景20・銀砂子
http://meoflora.exblog.jp/21544044/
2014-01-07T23:55:00+09:00
2016-03-04T16:24:27+09:00
2014-01-07T19:40:56+09:00
meo-flowerless
夢
旅館の廊下は、物凄く長い。暗くて、もう二部屋先の様子は見えないほどだ。
遠い部屋の人に、緊密に切実に話したいことがあり、電話をかける。
電話機は、昔風の黒電話だ。相手の声が肝心の所で途切れてもどかしく思う。
ふと見ると、実はそれは黒電話ふうの糸電話だった。
顔も場所も見えない相手に対し、なんとか糸をピンと張るよう、闇をあちこち動きまわる。
糸の調節に疲れはてた頃、自分のどこかから、ずるずると電話機の渦巻コードが垂れ下がっているのに気づいた。
腹部から垂れ下がっているのだ。
コードの先に別の受話器があるかもしれない、と辿っていく。
明かりが漏れている近くの部屋をそっと覗くと、そこに浴衣姿でいる、別の誰かの腹部に繋がっていた。
「そうか、臍の緒なんだ」
と呟いてしまった瞬間、遠い糸電話の相手が、思い切り張り詰めた糸を一方的にぶった切ってきた。
弾みで飛んできた向こうの紙コップ受話器が、私の頬を激しく打った。
.......
黒雲の下が真白に底光る北国の砂浜で、旗取り競争に参加している。
波打ち際に立っているのは、旗ではなく、魚掬いのような網だ。
網は二本突っ立っている。遠目にも、粗目の網と細目の網だとわかる。
スタートと同時に砂上を爆走した。
なぜか、細目の網の方に突進したのは自分だけだった。
粗目の網には、五人の女が群がり取っ組み合いの奪い合いをしている。
自分が手にしているのは絹のように繊細な美しい網なのに、皆なぜ選ばないのか、不思議でならない。
貴女はこちらへ、と誰かに言われるがままに、別の場所に網を持って移動する。
「その網は、銀砂子をさらう為の網です。銀砂子を分離してください」
と言われる。
砂の上に這いつくばり、浜の砂から黒銀に光る粒子を、延々と絹の網でさらい続ける。
こうやってさらさらともの言わぬ光の粒だけを相手にしていたら、いつか気が狂うな、と次第に不安になってくる。
隙を見て、砂上から逃げだした。
暗い漁村の一軒の家に助けを求めた。声を掛けつつも応答のない暗い廊下を進むと、一番奥に襖があった。
襖を開けるとそこには、一面壁材に銀砂子を使った、黒銀に光る部屋があった。
声にならぬ悲鳴を身の内に感じた。
と同時に、部屋内部につき押され、ピシッと襖を閉められた。
暗がりで畳に這ったまましばらくじっと様子を伺うと、数十センチ先に、白い蝋みたいな半透明の海老の稚魚が、黙って黒目がちの目でこっちを見ていた。
気味は悪いが、何か可愛い。
銀砂子を欲してるのはこの可愛い海老らしかった。
......
「くるしみのかたち」
という小品展覧会に出品を頼まれた。
来たな、という感じがした。今なら描けそうだ。
鉛筆と紙だけの表現限定というので若干不満だが、腕を振るおうと思った。
描いているときの記憶は一切なく、いつのまにかもう展示場で自分の絵を見ている。
何故か自分は、4Bくらいの濃い鉛筆のはっきりした一本線で、鏡餅のもちの部分だけをデカデカと描いたのだった。
身悶えするほど後悔した。
.....
大きい蝋燭と卓球をしている。
こっちがサーブ権を持つと、非情に良くないことがおこる、と私はわかっている。
それなのに相手はそれを分かってくれていない。
「先にどうぞ」
と言って、蝋燭のくせにピンポン球を渡してくる。
「私のほうはサーブしないんで、遠慮せず打込んでください」
と言って自分も投げ返すのだが、また蝋燭は、
「でも、そっちからどうぞ」
と言って球を放ってくる。それを数回繰り返した。
しまいには蝋燭の火めがけて球を投げつけ、
「あんたから打たないと始まらないのよ!」と罵声まで浴びせている。
球は焦げてしまった。蝋燭はどこかから球(多分自分の蝋を丸めた)を取り出した。
打つかな、と思っているとやはり躊躇している。
躊躇したまま蝋燭は短くなっていく。
芯が燃えて卓球台すれすれの背丈になった時、ようやくサーブを打ってきた。
我慢した力が溜まっていた私が、渾身の力で返球すると、溶けた蝋燭の中に球が埋まってしまった。
黙り込む蝋燭を見て初めて、ああ蝋燭を傷つけてしまったな、と後悔した。
しょうがなく次は自分からサーブを打った。
しかし案の定、返球しようとしてバランスを崩した蝋燭が倒れ、あっという間にまわりは火の海になった。
.....
夜の荒れた川景色の上を、浮遊している。
川景色は横長過ぎて、奥行きはなく、自分はただ上空を右往左往するしかない。
自分が小汚いので、こんなところで延々と飛ばされているのだと思う。
羽根ではなく、皮の空気ボールのようなものを背負って飛んでいる。
上空からやかんのお湯を川面に注いで、霧を発生させることができる。
霧の中に映画の白い字幕のようなものが現れる。
"愛を知れば夜は長い"
と浮かび上がって、水映の中にまた消える。
いい台詞だな、と思っていると、
「蛾には関係ないない」とどこかから声が聞こえる。
蛾って自分のことか、失礼な、と思う。
そのうち何か猛烈に右腕が痛くなってきて、身体も重くなってきた。
見る見るうちに水面に向かって墜落して行く。
白い字幕や湯気の辺りは何か温泉のように暖かそうに見えたにもかかわらず、落ちてみると拒絶的な水温だ。
......
肩から腕が猛烈に痛くて眠れない。
完全に腕をやられた。腱鞘炎の肩バージョン、何というの?
……
口にだせぬことが多すぎ、技巧をこらすしかない。
命削るほどの技巧を身につけるしかない。
これをわからない「子供」は「砂細工実習室」にまわされ、さらさらした砂で練習する。
わかってしまった「大人」は個室に机を与えられ、エメラルドの角を永遠に削って成形する仕事が待っている。そうやって強制的に別室にさせられ、縦の繋がりというものは無い。
......
そうだ、砂で細工を造るような緻密さが好きだった。つい最近まで。
でも今のこの感覚は、もっと硬い鉱物を物凄く慎重に削って成型していってるのに近い。
砂が崩れていく徒労感を逆に楽しんでたような人間だったと思うんだけど、変わりつつあるのかもしれない。
砂遊びに終わってしまうのが、もう本当に嫌なんだ。
そんなにまでして慎重に削った鉱物を、宝石のように身につけたり見せびらかしたりできるわけではないだろう。かと言って棄て去ることもできないのはわかってる。
胆石じゃないけど、この身のうちに異物として抱えながら生きて行くことになるんだろう。
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仮眠景19・苺
http://meoflora.exblog.jp/21533299/
2014-01-05T05:55:00+09:00
2016-03-04T16:24:27+09:00
2014-01-05T04:58:46+09:00
meo-flowerless
夢
もう長いこと、覆面で共同作業している。
覆面は、鉄工所で火花を除けるマスクのようなものだ。
人に言ってはいけない内容の仕事らしい。
共同作業者の表情も声も分からず、腹の内が分からないので、最初はまさかこの一連の作業のやり取りがケーキを作っている作業だなんて、自分でも思わなかった。
けれど現にショートケーキが出来つつある。
作る喜びを分かち合うことは未だ出来ていないが、最高の下地が出来ていることは確かだ。
手探りのようにしてクリームも塗った。
苺を乗っけるときだけは、どうか相手に覆面と手甲を外して欲しい。
素手と素顔で苺を乗せてほしい。
と切に願っている自分がいるが、それが叶うかどうかは相手次第である。
......
球技出来そうなくらいの大きさの、薄青い「真珠」を取り扱う仕事に従事している。
次から次に冷たく光る玉が渡されて、真珠の表面に印字されている文字を読み上げる仕事だ。
何かの暗号なのかもしれないが、断片的な詩のような文句の意図がよめないので、これを読み上げることで自分がいいことをしているのか悪いことをしているのか、分からない。
わからない言葉というのは、からだを貫通する放射線のように自分を破壊するものだ、と思う。
......
氷が濡れたように何もかも透明なセミがとまっている。
一目で欲しくなって手を伸ばしたら、身体を震わせてギーと鳴き出した。
震えてる生命感に戦いて慌てて手を引っ込める。
暫くすると鳴き止み、また氷の彫刻みたいに見えてきて、今度は死ぬ程欲しくなり、また手を伸ばす。
と、また鳴きだし、触れ難い感じになる。
何百回もこれを繰り返し、疲れ果てて出てきた三択が、
一、私が自殺する 二、セミを殺す 三、セミの汁を吸ってみる
だが、三が一番ハードルが高そうだ、とまた悩んでいる。
……
赤から桃色のグラデーションの大きな紙の上に、砂が少しずつこぼれる紙漏斗の振り子がある。
揺れに従ってこぼれる黒い砂が、赤い紙の上にモワレのような線を描いていく。
線が複雑に増えて行くのがとても綺麗で、眠くなる。
自由研究図鑑に載っていた遣り口なので、小学生の仕業にはちがいない。
目的は私を催眠にかけることだなと分かり始めて焦るが、もう手遅れで体が動かない。
何か砂糖のような粉を、脱力した自分がお漏らししているが、なすすべがない。
……
ティッシュ箱の蓋部分が、落雁になっている。
純白の、芍薬の花の複雑な花弁が型取りされている和菓子だ。
落雁の蓋を割ってみると、ティッシュ箱の中身はチリ紙ではなく、深紅の血みたいな液体だった。
……
苺蛾、という蛾がいて、要は桃色のクスサンである。
斑点と繊毛も果実的だが、物凄く気持ち悪い。
それはそうと仲間に一番言って欲しい言葉は、ひとこと、
「桃色」
である。
丁寧に漢字で言ってみてほしいのだ。
......
幼稚園の先生がある園児の胸に、特別の卒園花をつけてあげている。
桃色の造花だが、なぜかその子の花だけ、何輪も何輪もタテに連なっている。
リボンは漆黒のサテンである。
黒は不吉にも見える。
選ばれた子なのだ、と思う。
.....
森を背後に抱えた荒野には、「中学校のプール」がある。中学校自体は無い。
どこかで見たような知らないような男と並んで、同じ郷愁でそれを見物している。
「小学校のプールより深いんだよ」
夜なのに、水だけが夏の陽を透かしたかのように青い底光を放っている。
男が「深い」と言った深さは、実際の深度よりとてつもないものに感じられた。
夜空に花火のような稲妻が光る。三度目の稲妻で私は思わず声を上げた。
何かが爆発した星雲ガスのように赤い靄が空に消え残った。
音も聞こえないほどの天空高いところで、それは起こったらしかった。
やがて天幕のように世界を覆う、光る臙脂色の雨がやってきた。
やばい、と言って私達は慌てて逃げ出す。夢のような早さで走った。
影のように掴みがたい人物と一緒に、なにかリアルな青春のように走ることが、楽しかった。
柵のある片田舎のだらだら道で、走っている男は途中でふとはぐれて消えた。
走りながら一瞬心が疼いたが、しょうがなく、私は私で自分の道を逃げた。
息を切らしながら途中のドライブインで、食べたくもない蕎麦かラーメンを食べるため、止まった。
もう臙脂雨は降っていない。普通の小雨だった。
憂鬱なドラマセットのようなラーメン屋の硝子戸に、雨に汚れた自分の半裸が映っている。
もしかするとこの姿は少し恥ずかしいかな、くらいに思った。
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仮眠景18・竹割山水
http://meoflora.exblog.jp/21490477/
2013-12-26T05:54:00+09:00
2016-03-04T16:24:27+09:00
2013-12-25T04:59:13+09:00
meo-flowerless
夢
メスシリンダーぐらい背の高いタンブラーグラスに、炭酸で割った鶯色の飲物が注がれている。
透明な泡、緑に深まる水、岩のように液体をせき止めているライムまで、液体を眺めていると、日本の渓谷景をくまなく見つめる眼の旅のようだ。
竹割山水です、と言いながら寺院の女性が、狭い竹林の卓上にそれを差し出している。
……
金色の海を見ながら、赤と黒の美しいオス鳥が横顔のまま、
「波打ち際が綺麗なんだ。わかるかい?」
と言って、クッと正面を向く。
頭はカンムリヅルなのだが身体はどう見ても鹿なので不格好であり、オスの語る愛に集中出来ない。
……
一覧表サンプルには、たくさんの穴が整然と並んでいる。
それぞれの穴は、水滴が落ちた痕跡どおりの輪郭に、レーザーで精妙にくり抜かれている。
それは「鍵穴」の形の一覧表なのだ。
いよいよ愛を喪う前にしっかり心を鎮め、今のうちすべての形を覚えなければいけない鍵穴、なのだという。
……
冷たい鉄筋コンクリートの学校に転校するが、居心地が悪い。
音楽の授業の合間に教室をなんとかそっと脱出する。
早速授業をエスケープしてしまった後悔はあるが、ひんやりと底光りのする真昼の廊下で、せいせいしている。
モダンな牢獄のように設計された施設だ。
磨かれた大硝子の窓の外は、墨色の竹林だ。
冬の晴天をひんやり新たに撫でるような風が、廊下にも入り込む。
ふと廊下の奥を見ると、一部細くなった通路がある。
どこかから、小声の暗示で「人が待ってるよ」、と聞こえてきた。
人って誰だ、と不審に思うが、何か約束があった気もして、廊下奥へ歩みを進める。
何と、壁に見せかけたコンクリートの隠し扉があるのだった。
向こうには、二、三部屋の独房が存在していた。
ひっそりとした入居者達の中に、自分を待っている青年がいた。気持ちのよくすっきり片付いた茶室風独房で、セーター姿で青年は立っていた。
「あれ買ってきて欲しいんだ。あの…接着剤」
と青年は物怖じもせず、こちらに注文を付けてきた。
分かったと答え、一旦ふと消えてからまた独房に帰ってきた。
自分はストアのビニルから、何故か接着剤ではなく、青白く冴えざえと光るケミカルライトの文字をつまみだしている。
千歳飴を渡すように立てて手渡した。
多分それなりにくっつくよ、と言った。
文字は何だか読めないが、竹に関する漢詩の和訳の文字が、光るネオンにされているものだった。
「んー、これがよくくっつくのかなあ」
と青年が言うので反論する。
「よくくっつくより、よく立ち上がる言葉の方がいいじゃない」
「そうか、立ち上がる、か」
「すっと立ってんじゃん。見てみてよ」
「でも、すっとしすぎて夜が寒いよ」
「寒いなら、もう一本買ってくるわよ」
「一本じゃなくて何本も買って来て。立ててみるよ」
「ああ何本もね。たくさん立ったら詩になるよね」
「とにかく、寒いんだよ」
「寒いなら真白に光らせばいいこと?サイリュームをさ」
という自分の発言で目覚めてみると、寒い寒い言いながら寝惚けている夫と、激しい布団の引っ張りあいをしていた。
……
暗い森の狭間でパーティは終わり、どの人もすぐ帰るには名残惜しそうに外に溜まって、立話などしている。
あたりには夜の土の放出熱が冷えて立ちこめ、レモングラスにも似た清涼感のある緑の匂いが漂っている。
仮面の催しがあったのか、髪に赤比翼鳥の尻尾を付けていたり、赤い小枝を挿している女がいる。
スポットに照らされて金色に燃える木々の間に、つららから雫が滴るように見えるタイプのイルミネーションが、ひたひたと冷たい光を添えている。美しい夜だ。
黒地に細い縞のスーツを着こなしたゲストの人気者が、黒い帽子を胸に当てながら、皆の歓声に応じている。
人気者はひたすら同じ台詞を繰り返している。
「メリークリスマス。いやでも、俺は寒くて寒くて」
「ありがとう。いい夜を。いや本当に寒くて」
フランス語でもそのようなことを言っているようだ。
まただ、と思い、
「寒いなら上に一枚着たら。天使の羽根か何かを」
と、相手が人気者とわかっていながらも助言する。
.....
何もない荒涼の東京の道路に、真赤な海老が浮かんでいる。
誰とも関係のない十二月、手持ち無沙汰に道に迷っていても、人影もない。
真珠の首飾りの玉を想像している。
今の自分のように糸からはぐれて転がる真珠もあれば、単独で選ばれて指輪台に乗せられて収まる真珠もある。
......
雪の来そうなビル街に、どことなく鐘が鳴り響いているような感じがある。
重苦しい灰色藁半紙の郵便物がどしどし流されているのは中央郵便局だろう。
せわしない笑いのない温度のない人の群れが、模様を少しずつ変えながら蠢くのが、一瞬浮かぶ。
知人は大きい始発駅の近所に住んでいる。透明パッケージのような家だと言ってた。
夜八時頃から駅に佇んで、人々を迎え、終電まで微笑んでまた見送り、また家に帰るのだ、と言う。
優しそうに見えて、幾千万の人々が往来するのを、スローな血しぶき映像のように見ているんだろう。
想像の中では、駅に発着する新幹線なんかも白いイモムシなのだろう。
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仮眠景17・アンナマリア・ブラッドリー
http://meoflora.exblog.jp/21482300/
2013-12-23T11:45:00+09:00
2016-03-04T16:24:27+09:00
2013-12-23T01:05:01+09:00
meo-flowerless
夢
アンナマリア・ブラッドリーという名の洋風こけしが、高々と胸を張って、バイオリンを弾いている。
......
ローザンヌ・バレエコンクールをテレビで見ている。
相変わらず辛辣な女解説者が、一人一人の出場者の衣装について細かくこき下ろす。
が、自分には、一つ一つが、全部違う色の鳥のような、精巧な細工に見える。
それらが一センチ大に小さくなり、すべて違う色の指輪になって、十本の両手の指に踊っている。
......
赤い海を見ながら、
「今度もまた、更に簡単に糸をぶった切られた。伝わりっこない」
と思っている自分に、死んでしまったはずの人が苛々しながら、
「全力で呼べよ!!」と怒鳴る。
......
音楽会のために、せーの、と呼吸を合わせ、
「武士は喰わねど高楊枝!」
「だから何だと言われても!」
の叫び声デュエットを試みるが、どちらもつられてうまく行かない。
......
顔立ちはキリストみたいで悪くないのだが、役者志望の青年は、オーディションの前からもう失敗ばかりしている。
巨匠を会場へ誘導するのも、珈琲を出すのも、セッティングも手伝っている。
が、そのすべてで要領の悪いところを見せてしまった。合唱審査でも歌詞を間違えた。
厳しい演出補助に、お前はもうあっちに行ってろ、オーディションなんかもってのほかだ、と怒鳴られ、青年は大部屋で茫然と膝を抱えている。
自分は青年を後見してきた関わりから、同じように落ち込んでいる。
でも、オーディションの相手役としての仕事があるので、彼をどうしてあげることもできない。
万が一青年がオーディションの舞台に戻るときのために、とっておきの衣装で臨もう、と決意することしか出来ない。
それは、いつもより生地がしっかりしてカップのサイズも大きい、赤いブラジャーとパンティだ。
きちんとお腹を引っ込め仮面もかぶり、扇と鞭を持って、幾人ものオーディションの相手役をこなす。
オーディションが半ばまで進んだ頃、巨匠は何を思ったかふらっと大部屋を訪れて、未だ茫然と膝を抱えている青年に声をかけた。
「やれるのか」
青年は電気ムチを受けたように飛び起きて、やれますッと叫んだ。
その時の目の光と声が凄かったので、これはもう巨匠は彼を合格させるな、と自分は直感した。
私はもうオーディションの相手役をする必要は無くなった。
青年のほうは、何でもいいから自由に動いてみろと別のスタジオで言われているようだ。
朝日がブラインドから眩しく差し込むスタジオで、自分は赤いブラジャーとパンツに黒いコートを羽織って、待機している。
劇団と一緒に青年を連れて移動して行くための、旅立ちの準備をしている。
私が連れて行くというより、もしかすると、もう自分の方がお荷物になるのかもしれない、と感じる。
トランクの傍には中古のクラシックカメラがいくつかある。
これだけは忘れてはいけない、と、役者達が「銀色の瞳」で映る特別なカメラを選び取る。
現像液の中に残されている幾人かの役者の写真も、もうもとの印画紙からして、水銀のように反射してギラギラと輝いている。
劇団はむかしの開拓民風に、白い幌馬車で移動するらしい。
.....
誰もいない列車の車内だが、女車掌が一応、というように
「甘皮にしますか、泪川にいたしますか」
と問うので、なみだがわで、と一応答えると、海側の座席に通された。
ひんやりと暗い車内から延々と、晴れ渡った日本海を見ながら旅をする。
.....
浴槽に夕陽の色のような入浴剤を入れて、いい気持ちで浸かっている。
膝の間から、泡とともに何かスライドフィルムのような四角が浮かび上がってきた。
色褪せた山並みの図像が膝頭で弾け、揺らめきながら水に浮かぶ映写画面になった。
「流体映像か」
と思い、しばらく山並みを見つめていると、轟音が画面奥から響いてくるとともに黒字で「山」と描いた題字が浮かんだ。
仏蘭西女の最大ボリュームの囁き声が、
「La Montagne」と読み上げ、ゴン!とピアノの破裂音で区切りを打った。
予告編だな、と思った。
......
その男の聖母や天使になるよりも、ラジオの音波になって夜を貫きたかった。
「季節外れのサンタクロースが、来ましたよ」
などと警戒心を解きながら耳元に自分の声が忍び寄って行くのを、男は目をつむって聞いている。
「桃色を着たいのは、愛されたい時。青や緑は、向上したい時や一人で静まりたい時。
黄色を着ないのは、人と話すのが苦手だから。
最近黙々としたいようですけど。ちなみに濃い茶色が好きなのは頑固者なんだって」
と、この上なくうっとうしい話題を、自分は音波に乗せてしまった。
寝返りを打ちながら、矢張り気怠そうに男が、
「俺に取っての何色になりたいわけ」と言うので、
「黒になりたい」
と正直に答えた。
.....
雪の来る前に、は雪の匂いがする。
テレビを付けているらしい家の前を通ると、頭のどこかに青い光がピンと点る。
あの気配の感覚と、雪の気配を感じることとは、似ている。
「なんと言うんだっけ。雪の匂い。雪瓦斯?香瓦斯?」
と私が聞くと一緒にいる人が、
「希瓦斯」
と答える。
「違う違う、エージレス。荒川沿いに工場があったじゃない。ほら今は更地になってる....」
と、私は思い出した。
雪前は、世界の酸が抜けていくから、あのような透明な匂いがするのだ。
.....
「目処が立つ」という語句のなかでも、「イタリアン・メド」という種の目処の付け方があるらしい、とラジオを聞いていて知る。
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仮眠景16・アネモネトーン
http://meoflora.exblog.jp/21479607/
2013-12-22T10:35:00+09:00
2016-03-04T16:24:27+09:00
2013-12-22T10:35:07+09:00
meo-flowerless
夢
冬日の当たる赤いカーペットの部屋で、女の子が絵を描いている。
水性マジックの先からクキクキと音をさせている。
様々な赤、紫、ピンク系統だけの、サイケデリックな色調を駆使している。
よく見ると膝元にある水性マジックセットの商品ラベルに「アネモネトーン」と書いてある。
なるほど、アネモネの花色だから赤や紫ばかりなのだ。と納得する。
むかし父が、
「同じ色合いばかりで絵を描くのは狂った人のすることだからやめなさい」
と言った台詞はまだ心に残っているが、結局そういう意識を越えて絵描きになった自分がいる。
自分なのか自分の娘なのか定かではないこの幼児には、赤ばかりで描くのをやめろとは言わない。
傍では紅色のポータブルプレイヤーの上で、赤い透明のソノシートレコードが子供音楽を奏でている。
.....
移動講座の受講生を運んでいるのは、宇宙列車である。
宇宙だけれど、黒い空の下方には底光りする夏の海が常にある。
ある駅に近づくにつれ、芳しい花粉の香りが車内に充満してきた。
暗い夜の駅は、様々な桃色のストックの花の海の中にある。
列車は新しい受講生を収容する。
竹馬をしながら乗ってくる濃い桃色のストックの花の列の中には、ちゃんと人間も混じっている。
そのなかにある男の顔を発見した。
一瞬光るような目つきで、向こうも自分を発見した。
息が詰まりそうになった。
車内での細かいセミナーで何度も男の傍に立つ機会はあるのだが、話しかけない。
向こうも同じ緊張感を漂わせているのだが、顔をこちらに向けないでいる。
何故こんな胸騒ぎの中で「蒸気機関」の講習なんか受けているのだろうか。苛立つ。
簡易ベッドのある自室に戻って放心していると、同室の八重子が下衆な笑顔でにやつきながら言った。
「で、思いは遂げられたわけ?」
冷水を浴びせられた気がしてにらみ返したが、「やめて」とだけ言った。
煮え切らぬ思いで、机の上のエアーコンディショナー取扱説明書を意味なく眺めている。
ふと、その取扱説明書の文章がすべて四行ずつのソネット形式で繰り広げられているのに気づく。
このフォーマットを使って男へ暗号が送れる、と閃く。
他の人間の下衆の勘繰りを絶対にかいくぐり、考えも付かない方法で思いを遂げてやる、と決意する。
......
凍てついた河のほとりで冬景色を描く、絵画講座の講師をしている。
十二人の講師のうち、自分は紅一点である。
女の先生一人だからといって特別優待遇でもなく、みな捌けた態度で接してくれている。
けれどそろそろ紅一点役を若い女に鞍替えし、私は解雇されるだろう。
日当制のその日暮らしゆえ、今解雇されると年を越すのは厳しいというほど窮乏している。
クリスマスだというので、自分もサンタの格好をさせられる。
白いタイツに赤いサンタ風ミニスカート、というのが辛い。
それでも我慢してタイツの足をむき出しながら、風景画の描き方を寒空の下教えている。
「授業風景を撮ります」と誰かがポラロイドカメラを向けてきたので、一応先生らしい指導ポーズを決めた。
出来た写真を見ると、不思議と白いタイツの足が、思ったより長くて細い。
いつの間に時が戻ったように自分が痩せたのか、全く理解出来ないが、この脚線ならまだ紅一点役を頑張れる。
「神様ありがとう、とりあえず今、最高のクリスマスプレゼントです」
と空に向かって祈りを捧げる。
....
「鴉の横でセーラー服を着てスーパーハードを保っているデブ子」
というツイートの文字をじっと眺めて、意味を考えている。
.....
「じゃあ、御留守番お願いね」と母は言った。
高層住宅だけで組上げられた、遠くの山に買い出しに行くようだ。
「知らない人が訪ねてきても、ドアを開けないのよ。居留守使っていいからね」
子供じゃないのにとふと可笑しくなったが、わかってる、いってらっしゃい、と送り出した。
水の底のように静かな真昼で、何回か畳の上で眠ったり目を開けたり本を読んだりを繰り返した。
すると玄関のチャイムが、キン.....
と半分鳴った。
しばらく待ったが気配はそれきり無い。
気のせいか、と思った瞬間、....コンと残りの半分のチャイムがなった。
ずいぶん長押しをしたもんだ、と不思議に思ったが、母の言いつけ通り、無視していた。
しかしそれが同じようにキン...........
......コンと数回繰り返されたので、若干薄気味悪いような気がしてきた。
静寂の後、相手はとうとう諦めたのか、止めた自転車を動かし始める気配がした。
そっと二階の窓から訪問者を見下ろした。
白い服、白い帽子のセールスの中年女性が自転車で行くところだった。
自転車には何故か、黒いの透かし彫りの細工物がクラシックな飾り罫のように付いていた。
それが、白々とした地面に何か深い意味のある烙印のように、異様に映えて見えた。
「あっ、とうとう来たんだ、うちにも」
それを見た瞬間、何故か冷汗がどっと出てきた。
危なかった、本当に玄関に出なくてよかった、と思い、また息を改めて殺した。
....
地元の盛大な祭り「いちょう祭り」が、何故か今年は夏に行われている。
「青いちょう祭り」というので、若い青葉の甲州街道は、浴衣まじりのにぎわいを見せている。
駅に近づくにつれ、涼しげな出で立ちの人混みが、だんだん黒ずんだ人混みに変わってきた。
どういうわけか人混みの客が、みな若い警察官である。
どの人もこの人もおまわりさんだ。
職務にあたっているのではなく、屋台の出店などを楽しんで子供のように駈けたり、はしゃいでいる。
その黒を、真白な人物が自転車に乗って切り裂いて行く。
一抹の涼しい風が吹きすぎたようだった。
警察官の群れも、一瞬黙り込むような感じだった。
頭に一瞬何故か、夏の錦帯橋が浮かんだ。
自転車の小柄な女が走りながら振り返って、ちらと会釈した。和代だった。
和代の自転車の前籠は硝子製で丸く、何かの絵が描いてあって、丁度風鈴を逆さにしたようなものだった。
それきり人混みに遮られ、私達はすれ違った。
若い一人のおまわりさんに「齋藤さん、電報です」と郵便局員のようなことをされて、紙片を受け取った。
紙片には和代の文字で伝言が記されていた。
あの頃と同じ、忌野清志郎の字を真似したひしゃげた文字で、
「先ほどはお話も出来ませんでしたが、。」
とだけ、むかしと同じ青のボールペンで書かれていた。
もどかしいなその先の文章が肝心だろう、という思いと、句読点を「、。」と打ったりするところは変わっていない、という思いと、嫁ぎ先の山口県からあんな壊れやすそうな硝子の自転車で来たのだろうか、という疑問が交錯した。
和代の今に付いて調べてほしいのだけど、このときほど、数居るおまわりさん達が役に立たないものだと思ったことは、無かった。
.....
たった一つの小さな排気口が黒い雫を流している痕跡が、白壁の斜め下方にずっと延びている。
四角い凧が昇天して行くような形に見える。
「涙の跡を消すな。"結露のしみ" は俺達が死守するんだろう」
と男に言われ、身が引き締まる。
「お前はシンデレラ派なのか。そうじゃないだろう。かぐや姫派なら結露を守れ」
一瞬視界が白黒反転し、結露の黒いしみが、白く綺麗な涙の筋のように見えた。
.....
真白にアイスバーン化した渓谷の街道に沿って、町は長細く展開している。
板チョコを立てたように薄いウィンターリゾートマンションが高層にいくつも組上げられ、延々と屏風のように続く。
長細い居住区域以外は、粉塵のように気化した氷山の破片に包まれ、皆、そこにいくと消滅する。
深夜に町が騒がしいのに気づいて、目が醒めた。
「ああもう、歯止めも利かないくらい延焼してるみたいよ」という声が聞こえてくる。
ベランダに出ると、目の前のマンション山脈が火を反射して、真赤に染まっていた。
人々が怒号や悲鳴とともに、雪の町を避難して行く。
自分は何故か冷静で、逃げる気にならない。
その火事の原因を自分は把握しているのだ。
マンションの背後に巨大な少年がいて、この町を模型として観察していることを知っているのだ。
少年の手が時々燃え盛る木組みを棒で払い落としたり、興味本位に弄っているのが見える。
町の人は誰もそれを知らない。
隣家のテレビでも「ホテルニューカレドニアの火事の模様です」とリポーターが絶叫している。
ホテルニューカレドニアの方角を見ると、窓から物凄く美しい真緑の炎が溶岩のように吹き出していて、花火のようだ。
雪の町は緑と赤の炎に、カーニバルのように染まって行く。
戦争の空襲ですら、この忌まわしい感覚は無いんじゃないかと思う。
顔の見えない巨大な手が、実験感覚で様々な薬品を建造物に注ぎ変色炎を出してみたり、火を移して別の部分を炙り溶かしたり、棒で突き崩して行くのだ、とわかっている。
向こうはただ火で遊んでいるだけで、小さな人生の夥しい溶解や焼尽には、思いも及ばない。
舐めるように実験観察されながら破壊されていくことの、忌まわしさと残酷さなんだ、と思って見ている。
.....
未明に、マンション山脈の火は消えきった。
どういうわけだか、自分のいるこちらの居住区域は他人事のように無傷である。
黒のコートを羽織って、まだ暗い朝の雪の街に出る。
あちこちでくすぶる黒い煙と炭火色の赤が生々しい。
マンションの構造物は跡形も無い代わりに、白い灰がちょうど本当の山岳のように積もり、聳え立っている。
灰燼の山の中に燃え残った商店が、火事の後にも関わらず灯を付けて、未明から営業している。
桃色と薄紫に滲む丸い蛍光灯むき出しの看板が、半分溶けながらちゃんと点っている。
ラジオからトルコ音楽のようなのが響き渡っている。
焼跡の一部、低層階の屋根の上にあった公園の遊具も燃え残っていて、赤黒いキリン滑り台の首がのぞいていた。
.....
「オリゴ糖!」という叫びとともに、誰かにい切り何かを投げつけられ、あっと目を閉じた瞬間、ショッキングピンクの液体のようなものが、自分の中でブシュッと弾けた。
.....
数日の夢の繰り返しの後、何度目かの目覚めで、自分に対して無頓着な夫がさすがにおかしいと思ったのか、
「大丈夫か、もうずっと寝てばかり居るぞ」
と顔を覗き込んでいる。
これ飲みな、としょうが湯をくれた。
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仮眠景15・蓮の毒
http://meoflora.exblog.jp/21460765/
2013-12-18T02:02:00+09:00
2016-03-04T16:24:27+09:00
2013-12-17T09:59:54+09:00
meo-flowerless
夢
台所にはいつものように銀色の夜明けの光が差し込んでいる。
様子が何かいつもと違う。
竦む足で恐る恐る近づくと、冷蔵庫の横に、美しい顔の若い女二人が寄り添うように腰掛けたままぐったりしている。
最近ずっと見かけなかったけれど、こんなところに居たのか。
生きているのか死んでいるのかはわからなかった。
脈を取って確かめようとしたが、彼女達のまわりに散乱しているものを見て、瞬間的に彼女達の身体に触れるのを躊躇した。
「毒薬を作っていたな」
例の疑惑事件に関して話題になっている、あの毒薬に違いない。
乳鉢の中、そして彼女達の指先には白い粉が付着している。
私の部屋から持ち出した雑誌の一頁一頁に、それを慎重に溶いて塗り付ける作業をしていたようだ。
きわめて美しい娘達で、能力も優れていた。
が、何に対しても刺のように反発することを、自負しすぎているようなところがあった。
私のことも大嫌いなようで、全く気を許さず、こちらが挨拶しても目をそらした。まさか殺意を持っているとまでは思わなかった。
冷ややかに二人を放置して、見下ろした。
この部屋の至る所に毒が付着しているに違いないと気づき、執拗に石鹸で手を洗った。
黒いコートを羽織って凍てつく土地に居る。
例の事件を秘密裏に追わざるを得なくなっていた。
永久凍土のような白いグラウンドは、朝日を受ける住宅街下の、すり鉢状の広大な土地にある。
塩の湖のように、白い結晶がどこまでも続いている。
この白い塊すべてが劇毒のもとであることは、犯行グループの他には、今ここにいる私と、横に居る見知らぬ男が知るだけだ。
殺伐としたプレハブの中には、毒を製造するプラントがある。
「この機械を拷問に使ったらしい。何人潰されたことか」
と、見知らぬ男の指し示す右側には、黄色と桃色に着色された巨大な圧縮機があった。
ボタンを押すと重い天板が物凄い勢いで降下してきて、何かをスクラップする一歩手前でガチャーンと停まる。
何かを押しつぶす直前で引き上げられるが、高度がだんだん床に近づいていく仕組みだった。
「潜水艦科で主に使われたようだ」
天下の学府のT大に、潜水艦科などと言うセクションがあることを初めて知った。
左手には薄汚れた貯水プールが二つある。
何かの老廃物やゴミがヘドロ化して、底に沈んでいる。
彼女達がそうしていたように、本の頁にそれを塗り込む意図があったようで、雑誌も多く底に沈んでいる。
水面は、薄い膜を張ったように粉で白濁している。
「近づかないで。その表膜が毒だ。ここで栽培していたんだ」
件の毒の元となる白い蓮の残骸の底に、裸の女のグラビア雑誌が沈んでいるのが見える。
「大昔の蓮を蘇らせるとか、その蓮の香りを香水にするとか、そういう牧歌的な研究をしていた頃までは良かったんだろう」
男は言った。
あの蓮の花の気高い美しさは、このプラントやこの土地のどこにも、微塵も見つけることが出来なかった。
眩しい外に出ると視界に広がるのは、水面が毒物で結晶化した白い凍結湖だった。
一見、雪のかぶった河原のような景色だった。真白の蓮の花が、薄汚れて凍り付いている。
遠く、二、三人の男の影がある。
七十年代のような髪の長めのコートのT大の大学院生達で、角張った黒眼鏡をかけているようだ。
「幹部だな」
朝の光に満ちた水際ではしゃいでいる痩せた青年達は、幹部の青年達よりも学年が下なのだろうか。屈託が無い。
「下っ端はいつもああいうタイプだ」
と男が言った。
「この蓮も、白い岩塩のような塊も毒だとしらず、ああやって雪合戦みたいに遊んでるんだ」
ゆっくり回る毒で彼らが眠くなり、あの河原にばたばたと倒れていくのは、時間の問題らしかった。
「一回シャワー室で毒を洗い流してください」
と男にいわれ、消毒室のようなところですべて洗い流す。
「身を浄めてから、改めて毒を取り扱うので」
「はい」
これから私達の復讐がはじまるのか。しかしなぜこんなことに、と思った。
が、プラントの噴出口から出る金色の湯で身を浄めるほど、かつて感じたことの無い殺気が漲ってきた。
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仮眠景14・竜宮使
http://meoflora.exblog.jp/21461519/
2013-12-17T15:03:00+09:00
2016-03-04T16:24:27+09:00
2013-12-17T14:12:38+09:00
meo-flowerless
夢
大学の校舎の長い長い廊下の、光がいつもより奥深い。美しい。
何かの影が繊細なまだら模様を作っていて、それが光の階調を複雑にさせている。
廊下の奥には真昼の水が反射している。
水は無いけれど自分は廊下の上部をゆっくりと自由に泳いでいる。
私自身もかなり長大だ。
白い巨大ウナギかリュウグウノツカイのような身体をしている。
……
青い人魚の下半身がポールに掲げられ、旗にされて、曇天を背にはためいている。
残念ながら熱帯魚系ではなく鯖系だったのでこうなったのだと理解する。
場所は再び、国連前のような気がする。
......
ベージュ色の「先」という文字が、ポールの先端に付いて夕空に浮かんでいる。
所々に、赤や黄色や緑の硝子宝石がはめ込んであり、それがイルミネーションのように光る。
「先」自身が「先」の書き順を自分でわからないらしくて、何回も何回も勝手に形が変わる。
一つ一つの書き順を解体しては並べ替え、見たことも無い文字になってぴかぴか光っている。
……
「*」の青い雪マークが、くるくるとモーター回転しながら白い夕空に浮かんで回る。
いつもそのマークに付随するあの声がまた、
「チルチルミチル、チルチルミチル......」とお経のように繰り返している。
一度だけ「セキグチミユキ、セキグチミユキ...」と言っていたことがあるが、誰のことだか思い出せない。
......
勤め先は新校舎になったのだ。
「駅前から校舎内部まで直通で繋がっている」と学生が言うので、自分もエレベータの入口のようなものの前で待っている。
入口は山を切り通した斜面に穿ってある。シーズンオフのスキー場のような土地だ。
山や地面が恐ろしいほど揺れた。
学生の一人が、「どんだけ揺れんだよ、この乗物絶対危ない」と言っている。
「相当負荷が掛かってんね」という声もする。山の頂上の遥か高いところまで引き上げる負荷なのだろうか。
中に乗り込むと、有り得ないほどの衝撃で出発した。ロケット噴射のようだった。
揺れが収まると景色が開け、白い空に自分達の居る箱が浮かんでいる。これがロープウェーだったことが初めてわかった。
様々な緑色の絵具をチューブからそのまま出したような、もりもりした山の斜面を、喘ぎながら客車は運ばれる。
外に移ろう韓国的な高層団地群は、蜃気楼のように他人顔でこちらを見送っている。
あの景色の乾きと、自分たちの世界の粘度がどうも違う気がする。
案の定、斜面の頂上のあたりで客車が地面に近づいたとき、盛り上がった絵具の緑の山の中に客車が突っ込んだ。
客車は強引に絵具を引きずって汚れたままなおも上へ牽引されていく。
山の中腹の黄色いパビリオンの屋根も、落石止めコンクリートの格子も、すべて厚塗りの絵具で出来ている。
その厚塗りをぐちゃぐちゃに引きずり、車体が斜めになりながらも、ロープウェーは停まらない。
「うわあ、あー、あー」
という皆の呆れたような悲鳴は、どちらかと言うと絵が壊されたことへの悲鳴のようだったが、
命の危険を感じているのがこの群衆の中で私一人のようで、蒼白になりながら何も言い出せずにいる。
.....
その山の斜面は、今まで夢で何度か訪れている。
落石止めのコンクリートの格子が、繰り返し断続的に登場する。
普段は芝生である。冬には雪が降る。
スキーをするまでの深い冬のときには訪れたことがない。
いつもその斜面の上空を不安な気持ちで、何かを偵察するようにゆっくり浮かんで移動する。
一度は夏期のスキージャンプの選手が飛んでいるのとすれ違った。
それをミサイルの発射訓練偵察として見ていた。
基地でありながら、山頂にいけば行くほど山は霊山の神秘性と厳しさを増した。
赤い屋根の秘密宗教施設が何らかの軍事訓練をしているようだった。
首謀者は北欧系の老翁=サンタクロースだというような認識がずっとつきまとった。
麓には黄色いテント屋根の遊園地がある。
かなり狭い土地に、小腸のようにダイナミックなコースターや乗物達が絡まり合っている。
メリーゴーランドとカーレーシングは混濁していて、玩具の馬が高速で土地を走り回っては、衝突して子供の父親同士が言い合いをしていた。
チューブの中を水と一緒に流れ落ちる長い長いウォーターシュートがあったが、薄汚れた水と一緒に流れているのは、人ではなく熱帯植物の鉢だった。
幼い頃、遊園地というものに子供のくせに抱いていた一種の嫌悪感が、塊になったような場所だった。
....
最近どうもおなかの調子が悪く学校勤めを休みがちだ。
病院嫌いだが、やむを得ず診察を受けにいくことにする。
M病院は古い病院で、枯れた深い雑木林の中にあった。昔は「癲狂院」と呼ばれていた建物だ。
狭い診察室は既に手術室のような様子をしていて、いやな予感はした。
やたら人数の多いマスクをした看護婦が、水色の冷たい寝台に横たわるように促す。
通常の内科の診察の通りに、簡単にセーターの前の、おなかのところだけめくりあげて横たわる。
医師が触診し、下腹部のいつも痛む部分を押した。
ここですか、と問うのでそこです、と答える。
医師はいきなり腹部にメスを当てて切ろうとした。
「ちょっと待って、麻酔は無いんですか?」
と飛び退くと、看護婦医師一同、呆れたような目で私を見た。
「おなかを切ってみるくらいでは、麻酔は使いませんけど」
「本当にですか?痛くはないんですか?」
「それは切るのでね、少しは痛みはあるでしょうけど」
まるで歯医者が子供の泣くのを待っている時の目のように落ち着き払って全員が待っている。
「やめます、失礼します」
と、逃げ出した。
もっと評判のいい別の駅前の病院があった。
そこもかなりクラシックな木造の建物だったが、飛び込んだ。
ネット上の病院レビューで「入口付近の雰囲気が最悪」と書かれていたところだけ気になったが。
暗い廊下を曲がると、ぱっと明るいスポットライトに照らされた初めの部屋があって、黒い高級車がギラギラ照らされながら展示台に煌めいている。
EXILEのような色黒の男達やストリート系男子がそれぞれの盛装をして、ジャラジャラとその空間に居た。怯んでいる私を一斉に見るので、物凄く足早に通り過ぎた。
なるほど入口付近は最悪だ、と思いつつ受付を探すが、それらしきものは無く、待合の患者であろうはずの人々も、デパートの食品売り場を自由に観覧しているようだった。
かろうじて小さく「診察受付」と下がっている看板があるが、どう見てもアイスクリーム売場だ。
ピンクのキャップとミニスカートの女の子が店番している。
色とりどりのアイスクリーム売場に近づき、
「あの、受付は...」
とおずおず聞くと、目一杯のスマイルと甲高い声で、女の子が、
「はいっ、こちらになりまぁす」と、愛嬌を振りまいた。
....
全く、何もかも信用出来ないな。と痛む腹を押さえ、黒いコートで雑木林を彷徨う。
さっきから道連れがいる。
明るい性格の女学生だが、見覚えがあるのかどうなのか定かではない。
「早く早く、先生に聞けばわかるから」
彼女は先生の自宅に向かおうとしている。それは失礼なので避けたいのだが、と思っている。
石塀を乗り越え、落葉の海を彼女はどんどん突き進む。
幼い頃心ゆくまで自分の小学校の秘密の裏庭を彷徨った気分を、思い返している。
先生の自宅は彼の職種に似合うような、見事な石造りの古い屋敷だ。
彼女は重い扉を開け廊下を渡り、台所を通過した。
先生の妻が台所のテーブルで散乱した料理本を横に、机に突っ伏して眠っていた。
寝室の障子を不躾にも開くと、畳の部屋は暗くまだ布団が寝乱れたままにしてある。
先生は眠ってはおらず、布団の中でうつぶせにしていて、顔も上げず無愛想に「なんですか」と言った。
「この人が、おなかが痛いと言っています」
彼女は私のかわりに言った。
「おなかは、なんとか自分でしなさいよ。僕の頭は今それどころじゃない」
先生は溜息まじりに冷たく言い放った。寝床にあっても、いつものあの感じだった。
うつぶせで横たわったまま枕元の和灯籠を点灯し、寝床の中で眼鏡をかけ直した。
下部から灯で照らされる顔がこの上もなく不気味だった。
寝ていたのではなく、枕元の障子の下半分の板戸いっぱいに、白いチョークでドローイングをしていたらしい。
沢山の伊語の走り書きと、プラネタリウムの星座図のような点と線で板は埋め尽くされていた。
白い線は障子紙の上にまで伸び、さわさわと動き出しているところだった。
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