画家 齋藤芽生の日記 Twitter/ @meosaito


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冬の香水

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冬には冬らしい香水を使いたい。抑制の効いた、枯れた感じのだ。
最近は気分的にもまったく、花の咲くような気分ではない。
香木、煙、灰や粉。燃え尽きた気持、燻る年月。冷め果てた肌合い、新鮮な乾燥、粒子化して砂に化ける湿気。そういうものの匂いを欲する、乾いた心身がある。



雪の来る前、空が真珠色になってなんとなくキーンとはりつめた電気的な音が聞こえるくらいの日。アトリエコロンの【バニラ・アンサンセ】をつけるだろう。
甘さのあまりない突き放したようなバニラで、香木のトーンもある。
かちこちに凍ったバニラアイスの丸い頭の上で、これももまた身動き出来ないほど固まったホワイトチョコレートのコーティングが霜を吹いている。その上にわずかに乗っているピスタチオの欠片だけをつまんでみる。




雪が微かに舞うくらいの日。新たに手に入れたアンドレア・マークの【ソフト・テンション】をつけたい。
その名の通りの、曖昧な白の匂い。霧のなかで鼻がツンとするときの、「ツン」の匂いである。苔むした石の感じもある。清潔な病院の感じもある。形容しがたいが、ムスクは感じる。
どこかで競技大会があった後の花火かピストルか、残る幽かな硝煙の匂い。しばらく開けていない理科室の棚の薬品の匂い。暗い高校の廊下の向こうから一番怖い男性教師がスリッパをパスパスさせてやってくる影。身が強ばるが決してその教師が嫌いではない感じ。
その時の校舎裏に見える、雑木林と白い空と鳥。



大雪で雑木林が白く煙ったら、パヒューメリエ・ジェネラーレ【ボワ・ブロン】。白い森、の意。
たとえば、寒い外界で新鮮な木の切屑香を散々嗅いでから、暖かい室内に戻ったときの、部屋の古い家具の甘い匂い。アンダートーンにとても落ち着くアンバーとムスクの匂いがある。
厚手のタートルネックの首の折れ目に鼻の半分を埋めてその水平をじっと保ちながら座り、ストーブの前に座っている。足にしもやけが出来ている。
木っ端からにじみだして冷えて固まった松の樹脂を、ビーズのように剥がして取り、キラキラと眺めて、やがて鼻先に持っていって嗅いで、さらに指ですりつぶす。



普段の枯れた林や野を見ながら結局いつもつけるのは、ルタンスの【ロルフェリン】だ。
サイトには「灰の乙女」と和訳してあるが、ロルフェリンとは「孤児」の意味である。フランス人はこういうところ、凄い。日本人だったら「孤児」なんて、香水や化粧品にネーミングしないだろう。美術作品の主題のようだし、そのまま詩のタイトルだ。
「父は木で、母は炎。星屑のように優美で純粋。けれどもやがて塵にまみれ、霞んでいく人生の軌跡」と、香調の説明に書いてある。訳が分からないようだが、纏うと、そのまんまの香りだと思う。灰色の上に紫とローアンバーでうっすらグレーズを重ねたような色合。
冬の早朝の一番空気の澄んだ冷気のなか、かじかんだ鼻が充血している向こうに、うっすらと他人の煙草のひと吸い目を感じる、ような匂いだ。
どこかの野の、夕暮の煙の匂いでもよい。晩秋、かじかんだ足で枯草を踏みしめながら楽しんで歩く。孤独ではあるが、まだ心の底には信念も憧れもある、一抹の温もり。




もう一つ、冬の香水として、最高に冷ややかでシンとした冬の水のような、ウッディな胡椒の、エルメス【ポワーヴル・サマルカンド】の携帯サイズを持っていた。
これがいくら探しても見つからない。残念でならないが、かわりに宝物の棚の奥に(毒の植物のタネなども入ってる)、ここのところずっと探していた本、北原白秋の【雪と花火】をやっと見つけたので、喜んで読むことにした。

by meo-flowerless | 2019-01-03 21:14 | 匂いと味