画家 齋藤芽生の日記 Twitter/ @meosaito


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冥婚

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台湾からの交換留学生のR君は、当初全くできなかった日本語を必死に三ヶ月勉強し続け、中国からの留学生Eちゃんの的確な通訳もあり、最近では硬かった表情も取れて皆と談笑するようになった。皆で夕食を作って食べている時、日本のお盆の話題から、台湾や中国に霊魂の話に話題が移った。



【冥婚】の風習は、日本では東北のムカサリ絵馬などで知られている。判で押したような顔の稚拙な花嫁の絵に、青年たちの実際の遺影写真を組み合わせた奉納品。記事で見るそれらの写真には、異様さと懐かしさと悲しさが一気に襲ってくるような怖さがあり、一発で私の涙を誘うものがある。が、冥婚はむしろ、中国圏を中心とした習俗のようである。中国奥地のある地方では、死者と生者を実際に婚儀までさせていたとか。



R君の話す台湾の冥婚の話は、さらに印象に残った。

ある日、道に落ちている何やら赤い一通の封筒。それを通りすがりの青年が拾う。中にはお金と、誰か娘の写真と髪の毛。そこへ見知らぬおばさんが飛んできて青年の腕を掴み「お前は死んだ娘の伴侶だ」と言いわたす....そんな状況を想像しよう。その封筒のお金は、死んでしまった女の子との婚儀の結納金を意味するのだ。一旦受け取ったら、青年は結婚を宿命づけられる。のちにその青年が生きた別の人と結婚することは構わないのだが、あくまで死んだ娘の方が正妻であり、一生死者に誠意を尽くすことが約束されるのだ。



「ほら先生、この写真怖いね」とR君が見せてくれた携帯画像は白黒写真だった。50cmくらいの丈の、やけに悲劇的な演歌歌手のようなウェディングドレス姿の人形と、人間の青年との生真面目な婚儀の写真だった。見た途端に、不気味さというよりは悲哀で、感覚がささーっと銀色になるような寒気に襲われた。人形の湿っぽいうつむきがちな目元が、習俗的拘束力の神秘と絆の狂気を、色濃く醸し出している。




台湾のコンビニで私は赤い封筒セットを買ったことがある。日本にはない珍しいものだったから土産にした。それを思い出して青くなっていると、Eちゃんが「先生の買ったのは大丈夫。普通の祝儀袋だよ。この冥婚の封筒はもっとなんか、色が違うの」と言った。私はベトナムの市場からも、研究しようと思って「紙製の衣類や人形などの副葬品(死体とともに燃やす)」を多数買って帰ったのだが、すっかり忘れて研究もしなかった。「忘れるな」と冥界から警告を受けたような気がしてぞわぞわした。




迷信のような冥婚談だが、実際、幼い頃のR君はそのような封筒を道で拾おうとし、母親にダメ!と厳しく制止された、という。今も生きるリアルなのだ。死んだ娘の母親が物陰から見ていた場面が思い浮かぶ。中に大金や紙が入っていたかは知らない。拾っていたならR君は、「選ばれし冥界の婿殿」として生きたのかもしれない。



生きた人間を「民間」、死んだ人間を「地間」と言うのだが、その間の彷徨う存在もあるのだ、とEが教えてくれる。普段私たちには見えないものを目撃しながら普通に暮らしている日本人のKちゃんが身を乗り出してその話に聞き入る。

【孤魂野鬼(グーホェンイェグェ)】とその彷徨う魂を呼ぶのだそうだ。その字面の凄み.....Kちゃんが日頃フツーに報告してくる、人獣霊肉入り混じった何者かたちのイメージと、合致する。冥婚とは、死んだ若者が【孤魂野鬼】としていつまでも彷徨わずあの世で幸せになるための、魂鎮めの重要な風習なのだ。



また、中国版ゾンビのピョンピョン跳ねるキョンシーの姿、これは伝説として作られた所作なんかではなく、かつて実際山岳地帯で葬送屋が何人もの遺体をまとめて竹の棒につなぎ合わせて運ぶ時に、前に突き出した腕だけで固定された遺体が揺れでピョンピョン跳ねる様なのだ、と今更知った。リアルにその山道を運んでゆく葬送屋が浮かんで、また怖くなる。人の通らない道を密やかに、夜に運ぶのだそうだ。寂しい山の狭い夜道でそれらとすれ違うことを想像した。「実際は遺体の目とかは少し覆われていたかもね」と淡々と話すEに、可愛げのあるゾンビの装束イメージなどは吹っ飛んだ。



そんな話の合間にも、「この世ならぬもの」が私たちに近づいてきていたようだ。あとから知ったが、見知らぬ【孤魂野鬼】の白い男が物陰からじっと見ているのから魔除けをするため、Kちゃんが念のために包丁を入口に置いておいたようだ。



by meo-flowerless | 2017-07-06 02:01 | 日記