画家 齋藤芽生の日記
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パールだるま
現在私のアパートは、引越準備でひっちゃかめっちゃかである。
まあよくもこんなに、モノを、買いに買ったりと我ながら呆れつつボロ宝の海に埋もれている。
忙しいのだが、ボロ宝ダンボールからひとりの男前が出てきたのでご紹介。
パールだるま君、三重県鳥羽市出身。
鳥羽は、真珠産業で有名なミキモト家のお膝元である。
鳥羽秘宝館のイメージがあってぶらり訪れたのだが、秘宝館も今は閉館し、町はひっそりと静まり返り、往年の観光地の面影は随分褪せている。
静かな土産屋には、透けヌードの若い海女の青く焼けたポスターだとか、イルカのスノードームだとか、ガラスに閉じ込められた造花だとか、ピンぼけた総天然色映画の中に出てきそうな品が鎮座していて、淡く眩しいヒナび感。
そんな土産屋の店内に円柱形のムーディなショーウィンドウがあって、中に、名産みやげの真珠商品が飾ってあった。首飾りや五重塔の真珠細工も棄てがたいが、中でもびっしりふじつぼのように真珠をくっつけた、だるま型の日本人形に目が釘図けになってしまった。
聞くともうこのパールだるまは誰も作り手が無く、絶滅しているそうなのだ。私が見たものも、ディスプレーで売り物ではなかった。
手に入れるのは半ば諦めたが、何となく忘れられず、鳥羽から鈍行列車で別の違う海岸に行ってみたりして土産屋を覗いたが、土産屋自体がやっているのかいないのか解らず、だるまはなかなかてにはいらなかった。
最後に船で『答志島』という小さな島に渡った。いざ渡ってみると、鬱蒼とした木々と、蝉と、老人達しかいない小さな漁業の島で、土産屋はおろか、食堂すらないような場所だった。
さんざん島を歩き回ったあげく、結局もと来た道の船着き場の近くの干物屋で、店主だれももいない店内にコロンと「男パールだるま」が置いてあるのを発見し、店主がお昼ご飯から帰ってくるのを延々と待って、買った。
本物の真珠ではもちろん無いのだが、殿的衣装にねじり鉢巻という微妙な出で立ちに、仄白くおびただしい輝きが、結構エグくて似合ってる。
このパールだるまは、かつては本当に陳腐な土産の代表というほどに多く生産されていたそうなのだが、それでもこうやって何でも絶滅してゆくものなんだな。
土産モノに込められているその時代の匂いと広がり。絶滅する前に探し当て、ひとつひとつ拾い上げながら旅するのが夢だ。
by meo-flowerless
| 2011-01-08 20:42
| 宝