画家 齋藤芽生の日記 Twitter/ @meosaito


by meo-flowerless

プロフィールを見る
画像一覧

外部リンク

カテゴリ

全体
絵と言葉



匂いと味



映画
日記
告知
未分類

最新の記事

白玉のブルース
at 2017-08-13 15:27
2017年8月の日記
at 2017-08-08 18:20
佐賀日記〜波戸岬講座
at 2017-08-07 23:22
冥婚
at 2017-07-06 02:01
2017年7月の日記
at 2017-07-03 21:51
2017年6月の日記
at 2017-06-07 02:11
2017年6月の夢
at 2017-06-06 04:41
アクの強い辞書たち
at 2017-05-22 20:00
カンボジアの絵看板
at 2017-05-14 01:55
プノンペン日記 2017.5..
at 2017-05-10 09:35

ブログパーツ

以前の記事

2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
more...

画像一覧

那須温泉常夜灯

e0066861_15173515.jpg


埃のバラック、砂塵の楼閣。硫黄の谷間の温泉地。
折り重なるようなスイッチバック式急坂を上がっていくと、遙か下界に見えるは毒気の川、ぺしゃんこに廃れきった湯の宿廃墟群。観光客はおろか町の人間も見かけない。
古びた橋から川原に切り立つ石壁の方を見上げると、干からびてダラリと垂れ下がった内臓のような廃墟が、こびりつくようにして在った。




学生時代に研修旅行でここを訪れてから十年余、那須温泉はまるで「夢の中に出てくる曖昧な風景」のようになっていた。不可思議な方向感覚、無理矢理ねじ曲げたような道の勾配。行けば行くほど行先から遠ざかり、思わぬ場所と場所との間が、変に時空凝縮して繋がる。

以前は学生として、この春は学生の引率として、この地を訪れる。夕食までの自由時間、生徒は思い思いに目当ての施設や湯に向かって、いない。私は同僚数人と「鹿の湯」目指して散策。

普段無口なI君が立ち止まると、その視線の先にはいつも見事な廃墟。空襲にあったかのように屋根から陥没した小屋の内側では、丸いタイルの浴槽が枯れ草に埋もれていた。発泡スチロールのトーテムポールだけが、赤く生々しく置き去りに。

Y路の又にある温泉宿の看板犬は、素晴らしく老いている。「形のほとんど消えた地蔵」とか「モンゴル平原の家長」とか「焼いた丸石」みたいな顔の犬。十分も立ち止まり写真を撮る同僚二人、私はカメラ忘れたことを激しく後悔した。おそらく来年も又ここに来るとは思うけれど、この犬は生きているか。

メイン通りといっても、ただ焦茶色の家屋が、シンと雨の正月のように並ぶだけ。
そんな寂れ果てて虚ろな焦茶色の軒先に、突然目立つ「赤いネオンで出来た地球型のもの」をぶら下げている店を発見。吸い込まれるように、入る。
この店で売っているのは土地名産のものでも、温泉饅頭でもない。
「発光ダイオード」の電球や手品や玩具がひたすら棚に並ぶ、それのみを売る店らしい。
店のおじさんは待ちかまえていたように、一つの透明コップに水を入れて見せた。水が入った途端にその水がキラキラと虹色に発光する。私はこういう手品にきわめて弱く、前も別府鉄輪温泉の怪しい売店で「魔法の海綿」と店主に幻惑されてしまい、スポンジ手品を買わされたことがある。
虹色の水に見とれていると、店の奥から、鄙びた土地(と言っては申し訳ないが)には不似合いなほど綺麗な顔立ちの青年が出てくる。店主と青年は親子ではなく、友人。青年は陶芸家だという。驚いたことにこの店はちょうど前日に店開きをしたばかり、私達(主に私)が最初の獲物だというのだ。何故こんなひっそりとした湯の町にこんな不可思議な店を作ったのかは謎。けれど楽しそう。

私は夢中になって電球や玩具を物色したが、他の同僚は見るだけ。妙に話し込んで奥のアトリエまで案内してもらったあと、店を出た。秋葉原に例え売っていたとしても、ここで手に入れるのとは、「夢」度合いが違う。
ウルトラバイオレット、シロップオレンジ、様々な色の蛍光灯用ナツメ球の中から、私は虹色に光るものを買った。昔流行った「オパルス」という紙を思い出すが、中に透明な気泡のようなものがあってずっと綺麗。2000円もしたが、十年以上持つという。ついでに赤、青、黄に点滅する八十年代ディスコ的発光「おしゃぶり」を買う。

虹色常夜灯は、点けると、部屋が緑と菫色の間の薄暗いグレーになる。光源を見ていると、角度によって赤や青の光が筋になって目に飛び込んでくる。余り部屋の内装には興味のない私も、この常夜灯だけは熱愛している。
昔友人が、こういう蛍光灯ナツメ球を「ありあけ」と呼んでいた。普通のタイプのは赤みがかっているから「ありあけ」だけど、うちの青白いのは「宵の月」。


ひかり工房 那須
最近では陶のアクセサリーも売っているらしい
by meo-flowerless | 2005-09-10 18:52 |