画家 齋藤芽生の日記 Twitter/ @meosaito


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根津甚八死す

根津甚八が死んでしまった。うう…
いい役者、大好きな役者が。
思えば高校くらいの時から、好きな芸能人を聞かれても、好みのタイプを聞かれても、憧れの男を聞かれても「…根津甚八」とボソッと答えてたものだ。
正直ほかに好きな俳優などもいるし、付き合う男も根津甚八には別に似ていなかったが、とにかく「根津甚八」と言いたい、というのがずっとあった。


出演作品全て観ているファンなどではなく、話題を博した【黄金の日々】の石川五右衛門役も見ていなかった。いつ、この役者がいいと思うようになったかは覚えていない。


高校の頃、近所の図書館の貸出カセットテープのなかに根津甚八の歌集を見つけ借りて帰った。その暗い声に惚れたというのもある。最初の曲がなんと【上海帰りのリル】で、あまりに陰鬱で淡々としていた。ほかに中島みゆきの【狼になりたい】と【ピエロ】があったが、どうしようもなく朴訥で、それが私にとっては絶品だった。
どちらも中島みゆき自身が情感込めて歌うと本当に名曲、根津甚八バージョンは声も小さく地味すぎる。が、私にはこの二曲は根津甚八の世界のなかではじめて情景が立ち上がる曲、静かな火が点る曲だ、と思った。



彼を形容する褒め言葉はいくらもあるんだろう。渋さ、色気、味、しなやかさ、アングラの雰囲気、静かな狂気。しかし、何かもっと、ある。もやもやした形容しがたい魅力が。



柳町三男の【さらば愛しき大地】で、シャブ中の果てに放心した根津甚八がじっと家の外を暗い目で見つめている場面がある。その目に映るのは、北関東の稲田にざわめきながら渡って行く嵐の前の風だ。
あのシーンのあの目に、自分にとっての根津甚八の魅力は凝縮されているように思う。



高倉健的なアイコンのような男ではなく、逆にもっと癖のある演技派の俳優たちに比べれば突出して虚無的で、色気はあれども色恋を想像させるようでもなく、ダンディな丸みを帯びたいいおっさんにもならず。
うまく言えないが、いつでも「人間の素の形を感じる男」と思いながらいつも画面を観ていた。
亡くなっても、そんなに映画を多く観ていなくても、忘れられない影であり続けるだろう。
「生前なんとなく相容れずに死別した、親族の男の誰か」みたいなもどかしさ、懐かしさ、切なさがある。
by meo-flowerless | 2016-12-31 03:02 |