画家 齋藤芽生の日記 Twitter/ @meosaito


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大子町日記

大子町日記



9月10日
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今日から茨城県大子町で九日間の合宿。借り切った築40年くらいの民家で、タイ・シラパコーン大学とうちの芸大生が、共同生活しながら町をリサーチして、その印象を元に作品を作る。
教員はオーガナイズする役割。先方の大学からは、以前の東南アジア出張で親しくしたAmnat先生が引率として来る。


Amnatは私よりかなり歳下だったと思うが、頼りになる兄さんのような人だった。だるまさんみたいな顔。底抜けの陽性さと、敏感さ繊細さを兼ね備えていて、以前のベトナムでのワークショップでも、各国メンバーの輪を気遣いながら、あくまで自然に場を纏めてくれた。真の意味での人気者とはこういう人物をいうのだろう。いつか日本に招きたいと願っていたのが、かなった。
彼ら一行が到着するのは明日。タイの学生たちは初めての日本トーキョーを車窓で通り過ぎ、この暗い緑の片田舎に運ばれてどんな風に思うか。日本の標準的民家の生活にいきなり放り込まれて。
東京から遠く離れた里だが、この土地の人々は魅力がある。タイのメンバーやうちの学生たちと、うまく絆が結ばれるといいが。



私達は今日さきに、夜道のドライブを経て、民家に到着した。待っていた先発隊とともに、夕食を作って食べる。この期間のすべての胃袋は、うちの助手に任せている。
ほぼ全員英会話が不得手。何度も「refrigerator」をネイティブ発音しては笑い転げるなど、中学生のような夜だ。



学生たちとサンダル引きずりながら、幹線道路沿いにポツンと光るコンビニへ。車も全く通らない山闇の道路の真中を、清流の激しい音だけが爽快に裂いてゆく。何が好きってこういう夜の散歩が一番好きだ。冷たい橋から見下ろした水面の気配にのまれながら、花火がしたい、BBQがしたい、魚を追いたい、といくらでも想像が膨らむ。実際にそんな時間は、あるかわからないが。
無意味にrefrigeratorを何度も発音しながら、菓子を買って帰る。月にはうっすら虹がかった暈が見える、湿った夜空。ベランダで月見もしたい。
民家二軒先の、窓のない気になるカラオケスナックから、客がタクシーに乗り込むところをみた。自分も期間中、客になりたい。タクシーのあとには、静寂と鈴虫の声だけ残った。


夜中に皆が寝静まったあと、別の仕事のテキスト40人分くらい読む。
同じ作業台で静かにPC作業している博士学生に、つい最近まで10代ガールだった気がしていたのに、おとなの女性になったな、と感慨深い。


9月11日
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朝から私達の拙い英語力を駆使して、家の貼紙づくり。やると楽しくなってあちこちにベタベタはる。


9月12日
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タイメンバー、リトグラフ専門の院生たちの作品を開墾。クォリティの高さに緊張感走る。みんな健康でポジティブで、なおかつ、大人っぽい。
去年も経験した大子町プロジェクト、今年もフル奔走の日々が始まった。

9月13日

Amnat率いるタイチームは版画を専門分野としている。今回は広義の版画の手法のひとつとして、サイアノタイプ(青写真)のワークショップを地元中学生相手に行う予定だ。青写真は日光写真と同じ原理で、紙に塗った感光剤を太陽に反応させて、様々な像を焼き付ける青色の写真技法だ。


作った青写真作品をインスタレーションするところまで、タイの院生たちがアイデアを話し合って決めている。皆、積極的で、決して受け身ではない。その姿は私には刺激になった。狭い家の六畳間や、商店街のお茶飲みフリースペースで、ワイワイ先生とともに議論していた。唯一英語堪能な杉戸先生が、そういう込み入った会話では一手に彼らの通訳を引き受けているので、申し訳ない。


芸大生は、共同作業ではなく、個々が町内をリサーチし、様々なスペースに作品を設置する。店舗を使わせてもらうなどの場合は当然、各自交渉が必要だ。しかしこれこそは、役場や芸大教員挟んだ間接的交渉より、若い学生自身が単身で交渉先の懐に飛び込んだほうがうまくいく。幾人かは店舗の方に非常に気に入られ、ごはんをご馳走になったり、得意な楽器を聴かせたり教えたり、四方山話を聞いたり、交流自体が作品のベースになりそうだ。


しかし昨日、一人の交渉先のご主人が急死するという悲しいことがあった。高齢の方だったが、とてもかくしゃくとして元気なひとだった。初めて学生と訪ねた時からフレンドリーで、私にも色々な話をしてくれた。
夕暮私が行った時には、自分の持場の空店舗で学生が立ち尽くして泣いていた。ちょうどご主人宅に戻ってきた黒い車と棺を、学生が隣の空店舗から見守って迎えるところだった。その姿に、自分も涙が滲んだ。親族が駆けつけ、慌ただしい様子だった。
ご老人が亡くなったいま、彼女とご老人のささやかな交流を知る人はない。たしかに生々しい手触りとして学生各自が体験している人間同士の交流が、忽然と目前で停止してしまうことの喪失感に、私も茫然とするしかなかった。


9月13日

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サイアノタイプ(青写真)のワークショップ。学年全員と言っても34人。山の中にある小さい中学校だが、とても整然ときれいだ。
アムナットは自分のタイチーム学生達をアシスタントに。芸大からは教員二名助手一名が。
それに加え役場の二名、中学校の先生十名くらいが全員奔走し手取り足取りしなければならない、五時間に渡る壮大なワークショップになった。


初めて見るアジア異国の地の人。不思議な薬品の化学変化。美しい青に感光された作例写真の素晴らしさ。魔法のような工程。自分の好きな持ち物のシルエットが形に焼きつく不思議。中学生たちの興味の食らいつきは、すごく良かった。


あいにくの雨で、太陽光で感光できず、昨日チームが作ったUVライト装置で簡易な感光室を作り写真の焼き付けをした。が、普段の教室が暗室と不思議な紫の光だけに変わるという状況だけで、みな興奮しているようだった。
その場で一人一人撮影したポートレートをパソコンで白黒反転、透明フィルムにプリントし、版を作る。感光剤を塗った画用紙の上にその版や、自分の好きな持ち物を置いて、紫外線に当てる。
出来上がった青い写真は、写真というより幻想的な絵のようだった。


子供の頃、テレビのUFO特集番組で観た、忘れられない飛行物体の映像を思い出した。イタリアか何処かで撮影された、藍色の空の高い高いところに、何か白い小さいものが蠢いている映像。光でも、宇宙船的でもない。カメラがズームしていくと、その蠢くものは、どうやら白い馬なのだ。もがくようにして、白い馬が空で足を掻いている。
嘘か真か知らないが、吸い込まれるような神秘感があった。
作例のような技巧はないが、なにかシンプルで美しいある作品を見て、その映像を思い出した。


中学生は、思ったより話しかけてきて、可愛いかった。英語も果敢に使い、タイの学生と話していた。昼食は教室で給食を一緒に食べた。
一つのワークショップとしては大掛かり過ぎ、スタッフ全員が休む間なく作業をこなす、壮絶な授業の一日だった。自分は大声で授業を仕切りながら進めていってしまうタイプなので、もしかしたら繊細なアムナットや杉戸さんはいやだったかもしれないが、まあいい。多分これほどの作業には必要だった役割、と思うことにしよう。


ワークショップ中の写真を後でパソコンで見返し盛り上がっているタイチームを見て、多分彼らにも忘れられない経験になったのだ、と思った。緊張も一気に解れてきた。
以前ベトナムで会った時よりも互いに英語が通じず、気まずいようだったアムナットとも、だいぶ色々話しはじめられてきた。

9月14日

学生達の滞在家御近所に団塊世代くらいの男性Nさんが住んでいる。道で会うたび気さくに声を掛けてくれる。この若者集団が一つ屋根に同居する異例の入居状態も、おかげ様でご理解頂いている。
昨夜ワークショップと夕食会でへとへとの帰路、門前の道で一緒になったとき「そこのカラオケスナックに行くべ、ウェルカムパーティだ」と誘いを受け、私の瞳に〈♪♪♪〉〈♪♪♪〉スロットのゾロ目が浮かんだ。学生たちも、すっとんでついて来た。タイチームは「また今度」と言ってついて来ず。彼らはワークショップ後で、さすがに疲れていた。



遊びたい歌いたいというより、滞在始まって以来経験しているこの町の住人との交流のインパクトの強さ、それぞれの存在感や人生の濃さに、「交流する機会があれば進んで体験したい」という思いが今回は強い。
作品というものはある意味いつでも作れる。しかし「この土地でこの人々とだけの何らかの経験をする」ことは、機会を外せば永遠にあり得ない。無愛想で独りよがりの自分だけであったら他人と交流せず過ぎるところを、うちの学生やタイ学生の個々の交流体験を通し、私自身の心の門が開いた気がする。



二軒先の価格安めなカラオケスナックが貸切で入れなかったので、Nさんの別の行きつけのスナックに。出てきたママさんの無愛想な能面顔と、中のグレーベロアのソファや壁の70s的花柄内装を見た瞬間、ザ・リアル&ディープスナックの時空に魂が吸い込まれた。
洒落っ気たっぷりな東京時代の昔話にヘエヘエ相槌うちつつ、Nさんの「ダンシングオールナイト」などのストライク選曲に負けじと対抗する。私の昭和歌謡談義をよそに、学生たちは他のディープな女性常連客と合流し、何故か激しく踊りまくっている。
Nさんとは西田佐知子、ザ・ジャガーズ、平山みき、アニマルズの「朝日の当たる家」から「あゝ上野駅」まで、二人で熱唱した。女性常連客は年齢不詳の猛獣のような、年季の入ったセクシーさで、巨体を揺らして踊りまくっていた。しかし向こうからすると、若者に一人混じり「あゝ上野駅」を絶唱する私こそ得体の知れない年齢不詳者だったらしく、「あの歌知ってるってことは、50歳はやっぱし越えてんな」とひそひそ声で言われていた。


私が八代亜紀の「舟歌」を歌った時、間に入るダンチョネ節の、沖の鴎に深酒させて…のところでNさんがマイクを奪い、
「沖の鴎と飛行機乗りは どこで散るやらネ はてるやらダンチョネ…」
と、戦時中の哀しい替え歌を歌いあげた。そのあと、俺が死んだら三途の川で 鬼を集めてネ 相撲とるダンチョネ、などと続くらしい。笑い声のなか、そこだけ異様に、しんみりと聴いた。



自分はスナックに連れられて行って飲んだことはあるが、本当の地元の人と行きずりカラオケに発展したことはない。学生も25.6歳の個性豊かな猛者を揃えているが、彼らにとってもさすがに衝撃的な時空だったようだ。「なんだこれは夢か‼︎」「時空歪みすぎ」などと叫んでいた。
地元常連客の女性たちも、たぶん普段からあんなに踊ったりするわけではなく、新参客を盛り上げてくれたのだろう。
カウンターの中で坂本冬美ばりの無表情顏で黙って手を叩き続けているママを、味わい深げにうちの助手の女の子が観察していた。



狂乱のカラオケダンスばかりで和みの場をお騒がせしない程度に、早めにお酒を切り上げ、束の間のウェルカムパーティで夜の大子町を垣間見せて下さったオトナのNさんに御礼を言って帰宿した。Nさんも久々に若い人と交流した、と楽しがっていた。


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明けて14日、杉戸先生は別仕事で不在なので、タイチームの対応は私が主にしなければならない。しかも、展示会場の利用条件の理解の食い違いで、彼らのワークショップ作品展示案を変えさせなければいけなくなった。人生で二番目くらいに英語を喋った日だった。
会場管理の方とも長い話をし、タイチームとも作品についてかなり込み入った話を筆談交えながらし、落とし所が見つかった。
役場の方に借りた自転車で町を何往復もした。私はこういうときテンションあがって無駄に動き回る性格かもしれない。膨大な作業をチームワークで冷静にこなすタイチームからも「いいからいいから先生も休んで」と常に笑われていた。



9月15日

学部三年の久保さん。油画科だが幼少時からヴァイオリンを本格的に続けている。
彼女は町の元フルーツ屋のモダンな窓に絵を描くのと、古い菓子パン屋の山林堂の映像CMを作品としている。しかしそれだけではなく、袋田の滝で即席ミニ・ヴァイオリンコンサートをするのだ。


袋田の滝は、私も好きな場所だ。滝の圧倒的な威力も凄いが、周りの土産屋の佇まいも良い。この滝には、いつか学部一年を引率して来たことがある。その学年がいまもう25.6歳の大人になって、私とともに今回再訪するという感慨。
トンネルを抜けると、風圧のなか瀑布が眼前に見えるのがいい。


久保さんは、途中の抜け穴に設置された工藝作品の横、「恋人の聖地」という場所で演奏をした。今日到着した工芸科のチームも、演奏を見に来てくれた。
曲はヴィターリのシャコンヌ。私が好きな曲だ。哀調の変奏曲で、超絶技巧の難曲だ。
昨年、うちの院生が大学の物物交換所で拾った安バイオリンが研究室に置かれるようになり、私が自前のバイオリンを持参して皆で研究室でギコギコ弾くようになり、噂をききつけた一人の学部生がふらっと自分で楽器を弾きに来るようになった。その子が久保さんだった。


夏の名残の緑と湿気の中で繰り出される美しい音は、「楽器の音」というよりは、なにかの幽玄な鳥の鳴き声のようだった。緊張していたようだが、二曲弾いてくれた。聴いていた私は、もちろん目がうるんでしまった。
ミニコンサート後、皆で滝を鑑賞。タイメンバーは夢中になってiPadなどで撮影している。ハードな製作の合間の息抜きになっていればいい。鮎の塩焼きなどを食べていた。



彼女と展示場所持主の御老人との交流は、この短い間でも様々な微妙なやりとりがあったようだ。
最初は役場を通じた交渉で、場所の使用をやんわりことわられていたが、彼女がひとりバイオリンを手に下げて訪れると、興味を持って頂いたらしく、最終的にOKが出た。お宅でバイオリンの演奏や練習もさせてもらい、次の時にはピアノの堪能な光岡君がご主人にピアノを教え、また別の子も合わせてご飯をご馳走になり、ご主人が銀座のバーテンダーだった時代の話を聴き…家族でも友人でもない不思議な行きずりの絆がここにも出来ていた。
本当なら、自分のような担当教員からも御礼に行ったほうがいいのかもしれないが、私などがしゃしゃり出た瞬間に、淡くて濃い不思議な関係のシャボン玉が割れて消えてしまうような気がするのだ。

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とても感慨深い、しっとりした気持で袋田の滝から帰った。
それなのに、町の古いおもちゃ屋で光岡が見つけて買ったという「この子誰の子」という、80年代のエグいカードゲームを見て一気に、ゲスの気持に振り子が振れる。タイチームと遊ぶトランプなどを普通の子供玩具屋で買って帰るつもりが、ポケモンの横に何気無く置かれていたこのアダルトゲームについ手が伸び、買ってきてしまったらしい。
「誰の子かわからないほど男性関係のある女と、誰を孕ませたかわからないほど女性関係のある男が、カードで証拠を罵り合い、子供の駒を「あんたの子よ」と押し付けたら勝ち」という、どうしようもないゲーム。80年代後半のリーゼントや肩パッドやカチューシャや腋毛女優などクソダサいイメージに満ちたカード図像が、どうしようもないゲスさに哀愁を添える。
物静かそうな店主のおじさんにレジで「ゲームで遊んでも実際はやるなよ」とボソッと言われたそうだ。
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9月16日

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今日は展示作業。明日からもう展覧会は公開だが、タイチームのインスタレーションは終わるかな?
しかしクォリティは高い。青写真、彼らのリトグラフを家状に組み立てたものを何百もかべに貼り付け、大子町の形が浮きあがるようにする。


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日本チーム、隠し絵のような高技術ステンドグラスは中村さん、フルーツ屋二階の素敵な窓を変えたのは久保さん。

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駅前のラーメン屋、大成はウマい。いつも町の中高年で繁盛している。今日一人でふらっと入ったら、カウンターの老人方が一瞬シーンとした。そりゃまあそうだ。「どピンクの綿パンにダリア柄のシャツ、デカい湿布を腕に貼り、自転車でよく爆走している見慣れないあの人」が来た…という眼差しだ。外国人?とか、いつも自転車で走ってっぺ?とか、何で湿布?とか、隣席のおじいさんが断続的に話しかけてくる。水が満杯の私のコップに、自分も客なのにお水をつぎにきてくれる。なにかを独り言のようにしきりに呟いているのか、私に言っているのか定かでなく、言葉に対してこっちが目を合わせると、目を逸らす。ラーメンそっちのけで、会話にしようとこっちが答えても、相手は聞いてない、いつものパターン。結局いつしか、おじいさんの歌好き話、大子町カラオケスナック料金形態、スナックの女の子との昔の武勇伝などをフガフガと20分くらい熱弁されるのを聞いてるうち、あんかけカレーラーメンはフカフカに延びていった。


今日はタイチーム・芸大チームともに最終追い込みなので、自転車で各展示場所を巡回するはずが、ほとんど何処かのおじいさんやおばあさんに何となくつかまり、絶え間無く話をしていた日だった。この土地の人は、よくお喋りするようだ。

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ずっと気になっている店がある。昨年この商店街を視察した時、一番に目に飛び込んできたたとある料理屋。かなり年季の入った小さな店の佇まいは、軽々しい言葉の表現を拒むくらい、強烈なオーラを放っている。ぱっと見の「入りづらさ」も群を抜いている。
そんな年季の入った建物で展示をしてみたら、などとつい頭によぎったが、多方面から何故かここは×を出された。事情は知らない。



しかし今年は滞在が長いからか、戸が午前中は開け放され、店主が暗がりの店内にいつもいるのを見かける。窓際に見える背が、昼からなにか料理の仕込みをしている。ゾーリや下駄を日干ししている。入口近くの畳には、古びたギターが置いてある。様々な事情を、穿鑿する気も資格もないが、人を寄せ付けぬ佇まいの中、一抹の「誰かを待つ心」を感じてしまい、切ない。


今日通りがかったら、中から、古賀政男調の悲しいギターの爪弾きが響いてきた。暗い歌謡ブルースを、たどたどしく追う指とブランと暇そうに持て余す足だけが隙間から覗いている。
この町を少しずつ知っていくごとに募る、老いた人々へのやるせなさ、色々な出来事が一気に襲って来て、仕事途中にも関わらずついまた涙ぐんでしまった。


9月17日
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茨城県北芸術祭始まる。去年より初日の観客が多い 。
タイチームの青写真&リトグラフのインスタレーション完成。とても密度のある展示になった。場所は福祉会館ホールの通路。ホールでは地元の大カラオケ大会で、ギラギラの衣装をつけた老人が忙しく行き交う。
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瀬川は朝から、私に付ききりで展示のやり方を注意されてペソペソ涙を流したが、気を取り直してライブペインティング。
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その瀬川を写真に納めた光岡。絶妙のフェロモンがでていて、私の気に入った写真作品。大子町の百段階段に毎年飾られる「雛人形」たちの倉庫を特別に見せてもらい、大子町で入手の衣服に身を包んだ女が、雛と戯れている図を撮影。バブリーな肩パットの白い80年代ジャケット(12000円→500円)。老人の町大子にはスカートが売っていないので、枕カバーを腰に巻いて撮影した。
去年から気になっていた、七夕の薬玉が下がっている店舗倉庫を土壇場で拝借できた。
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日常に潜む都市伝説のように、風景のなかに「異物を点在させる」菅野のバケツは、町のあちこちに。菅野さんは担任している四年生ということもあって私も相当意見をしてしまった。途中で混乱したかもな。しかし、たくさんの情報量を吸収して結果的に自分らしさを出せる力が彼女にはある。
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宇野あずさの作品が今回とても良かったが、写真が撮れなかった。次回来た時にきっと。
場所を提供くださった家主がとつぜん亡くなるというショックの中で、自分の感情を整理しながら本当に真摯に作品と向き合ってくれた。彼女が、メンバーの陰のまとめ役でなかったら、このような統率は取れなかったと思う。

9月18日

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朝の開会式と夜の合同ディナーまでに時間が空くので、それまでに大子地区の山の方に展示場所している他科の作品を車で見回ることに。
と、思いきや、杉戸さんの先頭車は何故か、嵐のなか遠い海に向かって爆走を初める。山中の道を往復四時間うねり揺られながら、雨の海辺でずぶ濡れになりにいった。


カバコフの作品の青空がポカンと出迎える廃墟的な海。タイチームは震えながら、どーして急に嵐の海に連れて来られたのか、茫然としていたかもしれない。「ずっと山にいたから、開けた海でリフレッシュ」ということらしいが、タイチームに伝わったかしら。しかしこういう辺鄙な記憶は後でボディブローのように効いてくることは、確かに私も知ってる。寒かったが。

:::

夜の立食パーティでは、町役場の若者たちも酒が入り、暴れ気味のはしゃぎぶり。マンパワーが足りないなか、大子町役場の人には本当に丁寧に対応して頂いた。久保さんの「袋田の滝バイオリンライブ」を提案してくれたのも役場の方だ。これもあって、油画チームの学生の、表現の幅の本当の自由さを示すことが出来たように思う。比べても仕方ないが、芸術祭そのもののスタッフは、私達などとはまるで関係ない感じ。半年の準備期間中、一、二度しか会話もなかった。そんなもんかな。


去年から約束していたので、念願のカラオケスナックを役場の皆と、タイチームを誘い、ご一緒に。若い役場のメンバーが、カラオケスナックのルールについてマスターからえらいお叱りを受け、居づらくなり、早めに散会。しかし、皆の歌は聴くことが出来た。まあ、カラオケボックスではないんだから、スナックの流儀を知りな、とうちの学生にも言っておいた。一番それがわかっていたのは、ちゃんと他人の歌を聴いていた、タイチームだな。


「何かを表現出来る土壌」の奥底には「人・対・人」ということが横たわっている。その距離感と流儀を、場数を踏んで調節出来るようにならなくてはいけないんだな、と今回の旅では深く思った。
タイのマーが描いてくれた私の似顔絵が、よく似ていた。描くのが物凄く早く、立った八日間の交流で、私達が来ていた服やサンダルや持物の特徴を、何も見ないでもサッサッと書き込んでいくのに、皆、感動。
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by meo-flowerless | 2016-09-11 01:45 | 日記