画家 齋藤芽生の日記


by meo-flowerless

外部リンク

カテゴリ

全体
絵と言葉



匂いと味



映画
日記
告知
思考
未分類

最新の記事

2024年3月の日記
at 2024-03-04 01:47
変奏曲の魔力、からの解放
at 2024-02-28 22:09
2024年2月の日記
at 2024-02-03 14:46
2024年1月の日記
at 2024-01-13 15:12
珠洲 2017
at 2024-01-13 15:11
2023年12月の日記
at 2023-12-16 10:31
2023年11月の日記
at 2023-11-10 06:59
2023年10月の日記
at 2023-10-07 02:03
2023年9月の日記
at 2023-09-23 01:30
2023年8月の日記
at 2023-08-05 03:09

ブログパーツ

以前の記事

2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
more...

画像一覧

仮眠景12・受胎告知

仮眠景12・受胎告知_e0066861_0282832.jpg



写生遠足なのに、課題『受胎告知』と知らされる。
青空を見ても、枯木の梢を見ても、聖母などいるはずもない。
ひよどりみたいな、むくどりみたいなのが、ただビイと鳴いている。






しょうがないので記憶の限りの『受胎告知』図のおぼろな記憶を寄せ集め、適当なマリア様をスケッチブックに描いている。いくら描いても、どこかにありそうなイラストになる。
人差し指がツンと綺麗に立った天使が逆光になって立ちはだかり、何か棒のようなものを絵にかざして、予備校の先生のような口調で指導する。
「表現したいのは、マリアの行為なの?マリアの造形なの?それとも、マリアを取り巻く一連の現象なの?」


しばらく考えたが、そんなことをただの一度も考えたことがないのに気づき、じわじわと焦りだけに襲われる。
「わかりません」
と涙目で天使を見上げる。
天使は何も反応せず、きれいな顔ですらっと黙っている。
ので、消しゴムでぐしぐしと描いたものを消して、一から考え直すことにする。
行為、造形、現象、の三言が頭を駆け巡る。わからないが、わかったような気がする。
やはり天使はメッセンジャーだけあって言葉は的確だなどと思っている。


.....


赤土の抉り返された荒地に一人立つ。
苛立つ。自分のここのところの感情はちゃんと知っている。
その感情がある限り、自分には銃を撃つ正当な理由があると思う。


荒地のボロ小屋に向かいゆっくり銃を構えると、突然土からビョン!と縦長のパネルが飛び起きた。
人の形が黒で描いてある、と思う間もなく、五六枚が並び立つように連続で飛び起きる。
パネルに描いてある人物は、こちらに銃口を向けてライフルを構えている。
怯みつつなおも構えをやめないでいると、背後の岩山のあちこちの、高いところにも低いところにも同じパネルが並び立った。
全員銃口を私に向けている。
絵で描いてあるのだが、その夥しい片眼はすべて憎しみを持って自分を狙っている。
いや憎しみというよりもっとストレートな怒り、暴発する寸前の怒りだ、と思う。



全方角から包囲されて観念し、身を捧げようと一瞬思った。
いや、待て。自分の中にも何か充分にまだ感情が残っている。諦めるにはまだ虚ろになりきれていないばかりか、何か溢れる感情がある。
相手の怒りと同じかそれに増す分量の、悲しみを自分は持っている。それは苛立ちの何倍ほどの蓄えがある。
要するに私はとにかく悲しいのだった。ならばまだ正当な理由はある。
もはや何を撃ち抜けばいいかは見えないが、やれる気がする。


.....


高校の合宿みたいなにぎやかな灯を煌煌とつけて、施設の一部屋に詰めている。
こおろぎが鳴いて涼しげな一夜だ。
自分以外はすべて事務方専門の人たちだ。
とにかく私は、何かもしものことがあったときの責任のためにだけそこにいればいいのだった。
「何かもしも」が起こらなければいいのだが、と不安でいつつも、ゲームに興じてはしゃぎぶりをエスカレートさせる緩んだ職員達を、注意することも出来ずにいる。
だいたい彼らが何の任務をまかされているのか、聞いていない。



一人が血相変えて何かを「無い、無い」と言いながら探している。
ほら来たぞ、と思ったが、想像したよりも遥かに重大な事態に、愕然とする。
これから、日本全国から集めた『国家試験の答案用紙』を集計せねばならないのに、その答案用紙がすべて、どこにも無いのだと言う。
そういえば先ほど窓際で誰かがのんびり、赤ペンで採点をしつつ、古式なやり方で点数の下に赤棒を引いていた。そのやり方で国家試験がまかり通るのかと不思議な気もしたが、とにかく紛失とは重大自体である。
全員が一斉に私を青白い目つきで見始めて、責任を無言で迫る。
暗い窓の外のグラウンドには、早くも答案紛失のニュースに気づいたマスコミや受験者が、怒号とともに群がり始めている。



阿呆だと思いながらも、私はテキパキ指示する。
「これから、布団でバリケードを作ります」
事務員達は我にかえったように、布団部屋や押し入れからありったけの布団をかき集めてきて、窓に山を作った。
自分も隠れようと勢いづいて、何故か、
「ああああ赤ペン先生っっ!」と絶叫しながら布団にダイビングし、首からまともに突っ込んだ。
by meo-flowerless | 2013-12-09 00:17 |