画家 齋藤芽生の日記 Twitter/ @meosaito


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島日記15

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銚子渓のジョンに会いにいく。
ジョンは山のドライブイン「銚子茶屋」に繋がれている犬だ。
愛くるしく見えて実に複雑な素っ気なさで対応する。おそらく老犬なんだろう。
毛玉がごちゃごちゃになった中に、白い下歯が二本だけ目立つのが赤塚不二夫的だ。



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小豆島の寒霞渓は日本三大渓谷と言われる名所だが、銚子渓は同じ尾根続きの隣にある。
寒霞渓は紅葉の谷、銚子渓は猿の谷だから全然風景も違うんよ、と、島の人が言っていた。 
猿が最初から多かったのか、それとも猿園をつくったから増えたのかいきさつは知らないが、銚子茶屋の向かいにはモンキーランドがある。
モンキーランドに入らずとも車道の至る所で猿に遭う。
車をゆっくり走らせて見ると、「んだよ!」と言う顔で見返してくる。目を合わせることは危険らしい。


ジョンは夏毛に生え変わる様子もなく、いつもぐったりと毛玉の中に収まっている。
ドライブインに客が来ても黒い穴のような目でけだるげに見上げるだけだ。
でも店主に名を初めて聞いて「ジョン」と呼んでみたときには地面から五センチくらい飛び上がって身を起こした。

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いつも繋がれているところにいない。店主に聞くといつものように素っ気なく「ああ隣におるよ」とだけ言う。
隣ってどこのことだ…と店の横庭に入って見たが(すみません)そこにはいない。
坂をちょっと下った所の閑散とした「流し素麺レストラン」の入口にやっとジョンを見つける。
名を呼ぶとまた五センチくらい跳ね上がる。いつものように前足踏ん張って伸びをして迎える。そして大してしっぽも降らない。
真徳は執拗にお手を要求するが、そのたび頭をがっくりうなだれふりかぶるようにやけくそのお手をする。
なついているわけでもなくすぐそっぽを向いてしまうのだが、今日はよくよく撫でながら「あさってもう帰るよ」と語りかけると、何故かじっとこちらの顔を見返したのでびっくりした。



島にいるあいだ意味もなく何度もジョンに会いにきた。モンキーランドに観光に行くわけでもなく、そうめんを食うわけでもなく。
店主はいつも怪訝そうに私たちを見ていた。何か用事をと思いオリーブサイダーをいつも買って飲む。
オリーブサイダーは別にオリーブの味がするわけではなく青リンゴのような飲料で、色がオリーブ色なのだ。
銚子渓という名前にぴったり合った色だといつも思う。



寒霞渓はそれは絶景だけれども、私はそれよりも銚子渓から見下ろす棚田と土庄の町に息を呑む。
車で山道を降りつつ、ジョンはかなり山高いところに住む犬なんだと実感する。散歩で出会う犬友達もいないだろう。
年がら年中あそこで発破の爆発音を聞きながら、猿の襲撃に備えて番犬をつとめているのだ。


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銚子渓にいるのは猿だけではない。孔雀もいるはずなのだ。
島内の廃園になった施設で何百匹も飼われていた孔雀を、ここに移したのだという。
もとの施設では、飛ばないはずの孔雀を猛特訓し、丘の上から飛行ショーを開催していたのだ。
そうするうち孔雀のほとんどが飛んで逃げて野生化し、経営困難になった。
もう多くが野生では生きれず死んだとは聞いたが、真徳は車道に落ちている野生の孔雀の長い羽を一本拾っている。
店で売っているようなやつでなく、尾先のv字になっている部分。


池田港付近の丘の、件の鳥園の廃墟は、なかなかに壮絶な風景だ。
名称を書くとあれだから書かないけど、ピーコックガーデンを和訳したのがほんとの名だ。
五月に来たときに実は入ってみたのである(すみません)。もちろん砂粒ひとつたりとも持ち出したりはしなかった。
70年代生まれ80年代育ちの自分には悶絶してしまうほど懐かしい「南方沖漂流感」。
椰子並木にアゲハ舞い踊り、孔雀霊が漂う荒廃した庭。獣に食いちぎられた孔雀の剥製とか、土産ラックとかそのまま。
潜入者がそうしたのか、食堂の卓上には見本のカレーのレプリカとスプーンが丁寧に並べられ、試食人を待ち続けている。
ただ、あとから、「あの施設には近づくな、事情も聞こうとしない方がいい」と島の人に釘を刺された。


もう入りません。でも行っといてよかった。悪いけどあたしは描くぞ。



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中山の棚田は小豆島の別の名所である。
緑の谷は息をのむほど美しく、そこの鄙びた舞台は田舎歌舞伎の名所となっている。
暇なとき真徳に連れてきてもらったが、ある日彼は、さらに棚田の上の集落の細い頼りなげな急坂を車で猛進していった。


夢のなかでたまにある、重力が多方向に効きまくる感覚。折り重なる立体に車がかろうじて張り付いてるようだった。
道を知っているわけではなく、九十九折道がどんな高みまで自分らを連れて行くか不安になった頃、突然ぽっかりと緑のトンネルが現れた。


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一瞬ぞっとするような暗がりだったが、舗装が途絶えたでこぼこ道をさらに突進していくと、山林を抜けてとても綺麗な緑の池に出た。


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緑の池にびっくりしてさらに車を進めると、突然あの銚子茶屋の駐車場前に出て、ジョンがいつものように退屈そうにしていた。
自分のなかで到底つながりもないだろうと思っていた地点が実は短路で通じているという錯綜感に、必要以上に感動してしまった。



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by meo-flowerless | 2013-08-21 01:38 |