画家 齋藤芽生の日記 Twitter/ @meosaito


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島日記10

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殺人的な暑さが日々心身を削ってゆくが、人は親切だし食材をどんどんくれるし、一日のうち何回も瀕死になったり再生したり忙しい。
少し病んで寝た日があったが、もう次の日にはあまり知らない島民の方まで、「もう起きれたん?しっかり養生せんと」と声をかけてくる。
すいかもメロンも桃も腹壊すまで食べた。暑気払いに、あとしてないことは何か。
 

泳いでいない。
目の前に、そこら中に、広がるこの美しい海に、未だ入っていないのである。
「盆の間は海に入っちゃいかんよ。連れていかれるんだぜ」
と夫が忠告するので、盆に入る前の今日にもう泳いでしまおうということになる。
遠いショッピングセンターまで行き、水着やシュノーケルを買い込む。
全く泳ぎが巧い訳ではない。ただもう、水に浮かびたい。






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土庄港の当たりにはリゾートめいた海水浴場があるが、そういうとこは、いやである。
それよりも宿舎近く、三都半島の浜の方が静かで誰もおらず、美しい。
半島のカーブを大きく回った集落の、広い入江に降りて行く。
静かな家々、赤い夏花、打ち捨てられた船小屋、そして堤防すぐ脇の墓場。
確かに盆にここに来たら、墓と海との間で、祖霊たちが夥しく行き交うだろう。


遠く運搬船やフェリーの白い姿が航行するのが、夢のように見えるだけ。
いつ見ても、絵巻のような海。


泳ぐのも、水に顔をつけるのも、大学四年の時以来だ。
何度も何度もいろんな渚や磯に足を運び、海を見て来たのに、「海水浴」をする人生からずいぶんズレて生きて来てた。
だから純粋に嬉しい。
生きてく上で大事なことは、まず自分の体を喜ばすことだと実感する。
生まれながらの魚座が、水を得て跳ね回る。
といってもほんとに波打ち際すれすれを平泳ぎしたり、這ったりするに留まる。
なんせ泳ぎは下手なんだ、実は。


十九歳の時。まだ噴火前の三宅島に、予備校仲間と合宿に行った。
海の帰り少し疲れながら炎天の坂道、皆がビーチサンダルをズーッズーッと摺っていく音を聞き、突然「今が青春の絶頂だな」と思ったことを、今思い出す。
誰もいない貝細工の店で皆で貝の風鈴をシャラシャラ弄りまくったあとのズーッズーッだった。だからその貝の音もセットで青春なのだ。
他のきらきらした風景や瞬間より、音のほうが体に食い込んだ。


その後の忘れ得ぬ記憶にも、何かしらの音がセットになってる。
さらに言うと音が耳に入ってくるのは、複数の人や間柄の遠い友と一緒に聞くことが多いようだ。
恋人、親友、ましてや家族と一緒にいる時というのは五感が休息してて何の音も聞こうとしていない気がする。
一人で孤独な時だと、マイクが風の音を拾うような感じで、ただただ大気の轟音が聞こえるばかりだ。聴覚は不思議だ。


学部四年の時に、フランスに留学していた恋人にくっついて、南仏の海で泳ぐ、という私史上最高にデラックス「なはず」の経験をした。
マルセイユ郊外の崖の狭間にある、ほぼ誰も知ることも無い、ひみつの狭い入江に行ったのである。


というと素敵なんだが、そこにたどり着くまで、彼のルームメイトである偏屈なフィリップ君というフランス人学生が、黙々と過酷な岩場を道案内する道程。クライミングの装備が無いとだめなくらいの岩場をひょいひょいと、無口なオタクフランス青年は勝手に降りて行くのだった。


泣く泣くたどり着いた入江は、たしかに掛け値なしに、今まで見た中で一番青い海だった。
ただ、フィリップ君が黙って泳ぎはじめた姿が、水泳着ではなく、数日はいたままであろう少し汚れたパンツ一丁だったのが衝撃的で、そればかり記憶に残った。


フィリップが乗せて来てくれた車はおそらくマルセイユ一番ぼろい、ほとんど壊れた車で、それで走ると皆が振り向いたり、不良が口笛吹いたりした。
白い車体に何故か黄色と赤でださい日の出の絵が書いてあった。走り出すとボコンバカンとヤバい音を立てる。
そんなぽんこつな生活を、フィリップという人は笑い飛ばすような人柄ではまったくなく、笑顔一つ見せない、孤独で静かな青年だった。


その後同行者の先輩とは破れた恋愛だったけど、その痛みというより、なんかあのイライラするフィリップ君の存在とあの車のひどい音とパンツの前の汚れのほうが、いつまでも切なくよみがえる。




静かな海ほど、思わぬ勢いですぐ底が深くなる。引き潮が不思議なくらい沖へ体を持って行こうとする。
でかい青銀の飛魚が三段跳びして横切る。真徳は少し深い所まで行って小魚の群れを見ている。
灰色で虹色の、夫婦みたいな大きい魚が、何故か波打ち際ぎりぎりまで、挨拶しにくるように近づいて来た。


何年ぶりかよ、水着姿。
暑中お見舞い申し上げます。
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by meo-flowerless | 2013-08-10 17:28 |