画家 齋藤芽生の日記 Twitter/ @meosaito


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模型町から

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この風景はお気に入りの風景だ。家から歩いて五分もしないところからの眺望だ。
これだけみるとひたすら玩具のような均一のロットの並ぶ住宅街に私が住んでいて、人工的な高台から見下ろしているかのようだが、これは低い小さな山の上、木の陰から覗く眺望なのだ。だから好きなのだ。


私のアパートの裏のその小さな山は、飽くなき造成に埋め尽くされた町の中に、そこだけ黒ずんで鬱蒼と取り残されている。
なぜそこだけ自然のまま取り残されているのか理由は知らない。


この山からは虫や鳥達の、まだ暗い内から朝に気付く敏感なざわめきが聞こえてくる。
夜を徹して仕事をしている夏の未明には、きっかり四時半から二十分間だけ、無数のヒグラシが命がけで大輪唱を繰り広げる。
ホトトギスが、山から着て屋根の上辺りを巡回してはしゃぐのも、浅い眠りを覚ましてゆく。


近所の駅前に行くのにも、わざわざ相棒はこの山に登って降りてから行きたがる。
かなり年季の入った逞しい広葉樹の高い梢に、ざっと強い風が渡る。
ちりちりと光を切り刻む葉の陰から、色紙のような青空と積木の家々が眼下に広がる。
丘の上には風が渦巻いているのに、その模型の家並は、風のそよぎを知らずに停まった空気の中に在る気がする。
その風景のギャップは強烈だ。一瞬胸がすかっとし、そして青い張りつめた物悲しさにも襲われる。




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駅前には洒落たアコーディオン型の白い高層住宅の棟々がある。
私が住んでいたのは違う団地だが、1970年代の終わり独特の、変拍子な規則で並べられた箱形建築は、故郷の風景にも通じている。


団地外れの医療センターがまだ建てられたばかりの頃。
草木一本まだ生えていない広大なバスターミナルの側溝に私は座って一人遊びをした。
冬の陽差しは、生きものの大小の秩序を一瞬忘れさせるような均一な明瞭さで、地面に影を落とす。
側溝のコンクリートの隙間にも蟻が小さな穴を穿ち住み、テクノクラートじみて働いている。
その影がちかちかと行き来しているのを、黙って見ていた。
蟻の穴の付近には細かい砂の山が盛塩のようになっていて、その一粒一粒さえが影を持っていた。


じっと見ていると自分が蟻の世界に生きている気がしてくる。
私は、木切れや枯葉や松葉、レシートやガムの包みなどの滓を吹きだまりから集めて、辛うじて小さな門が芽と屋根、庭石などを作った。
「これは蟻の邸宅だ。蟻は穴の中なんかで共同生活していないでもっと大きな邸宅に住めば良い」
と一人勝手に思いながら、木と石の小さな家をバス停の脇にこしらえた。



西日に当たる高層住宅をみていると、天地のベクトルは逆だけど、あの日の蟻の穴の、不思議な秩序に制御された、夥しい営みを思い出す。




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夜景を綺麗に撮れるというミラーレス一丸デジカメを手に入れたので、夕飯の買物と言いつつ独りふらっと家を出、夜の町に撮影にいく。


私のアパートの踊場からは、遠景に連なる山脈のように、マンションの灯がずっと帯になっているのが見える。
いつかみたトルクメニスタン近くのロシアの映画。
砂嵐の中、小屋だの工場だの、巨大な団地群や峻厳な山脈やら固まって連なる、遠近と縮尺の狂った風景を思い出す。


夜になって灯が点く。
と、あの高層住宅は何故か数キロうちに近づいてきやしないか?
それとも私の目が望遠レンズになったのか?と思うような遠近のひどく狂った距離の縮みと、町の歪曲感と、光の輪郭の虹色の滲みを感じる。


一度なんか、はっきりこの耳に、あの窓のうちの一つの中から高笑いする夕食時の男の声のこだまするのを聴いたのだ。
灰色の反射が渦巻く不穏な夜の低い雲に近くそれは響き渡って行った。
聞こえるはずがないほど、遠いのに。
by meo-flowerless | 2011-11-30 23:37 |