画家 齋藤芽生の日記 Twitter/ @meosaito


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無為無策旅行・石和温泉

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サルスベリの花のやつれた桃色が似合う場所なのだった。
そのぬめぬめした引っかかりの無い幹と、いきなり咲き乱れる血潮吹いたような紅さが、この歓楽地の渇いた性感にしっくりとくる。


石和温泉というところが、いわゆる情緒たっぷりな湯の町風情あふれる場所とは違うと漠然と知っていたのは、滝田ゆうの漫画のせいか。
タクシーの運転手の連れゆくままに走る道すがら、雨の猫を拾うように、女の子の`夜の時間`を買う男。
ショボショボとこちらの眼をこれでもかと屡叩かせる細い線で描かれた、いかにも1969!って感じの長い髪。
身の上、訳あり、金借り、束の間.........
他人の事情という幾千もの雨の束の向こうに、見えそうで見えない「湯の町構造」。



鰍沢の古道具屋がツブれていたおかげで手持ち無沙汰なので、甲府から二駅目くらいの石和温泉をさすらう。
宴会目当ての団体客の一人でもなければ、温泉好きの好事家でもない、私らのようなただの散策者には、何の旅情も秘宝も、湯の花ヒトカケもまったく見せてくれないこの駅前風景。


怪しい雲行きの下広がるのはただ、だだっ広く何処にでもありそうな地方都市の畑、住宅街、スーパーなど。
ここほんとに温泉かい?と訝しみつつ、遠く離れて点在するらしい大型ホテルの看板をたよりに温泉街メイン通りを探して歩くが......なかなか辿り着かない。
表面化していない温泉街とでもいうのか。でも一体、温泉地にありがちな何が足りないのか。


風情の欠片もなし。
天と地の距離が近く、緑の少ない、光と影の少ない、起伏のない土地。


夕立に降られ、何年ぶりかに「雨宿り」というものをする。
この笛吹市内の何処にでも広がる背丈低い葡萄畑の合間を濡れながら逃げ、辿り着いた屋根は、観光客向けワイン工場見学館の裏口軒下だった。沢山の中高年たちが着飾って次々と観光バスから降りてきては、向かいの素っ気ないワイン&チーズ試食工房の中に入っていく。
私達は葡萄棚の下、誰かが拾ってきた蕎麦屋椅子に腰掛け、晴れるのを待つ。


退屈なので、斜め前にある水晶&パワーストーン館『八珍石』なるものに入ってみる。
どこかの岩肌で採れるのか、この町にはよく水晶屋があるようだ。
テンの置物とか天然石を貼った鶴の絵とか、偽天文時計とか.....。
そういう類いのものが雑然と置いてあるテントの下をくぐって二階に上がると、誰もいない展示スペースがある。
またまた、中国の桃源郷細工、沢山の掛軸の前の素っ気ないラーメンスタンド椅子一つ、鷹や鶴や桃の工芸品に埋もれた誰が座るとも無いソファ、酒屋からもらった感じのカレンダーとか.....。



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階下の売場で、硝子製の真赤な桃の木の置物が気になったので、そこにいた置物みたいなオカッパのおばさんに値段を聞くと、突然、
「しゃちょおおおお!!」というもの凄い金切り声で店主を呼び、私達の度肝を抜かせた。
目覚まし時計かいあんたは!
何故か社長と呼ばれて、二人のおっさんが出てきて、三人に鋭い目で囲まれながら、こわごわ一個だけ、件の3000円のガラスの置物を買った。
なんなんだ。



空は暗いままだが、雨脚は弱まった。
葡萄農家や、妖しげな「ポッと出リゾートマンション」の間をすり抜け、おそらくここがメインの歓楽街に繋がるであろう川沿いを歩き始める。
行けども行けども温泉観光客の往来なし。
しかしタクシーは何故かしょっちゅう走りすぎる。
ハッと思いだす知人の談。山梨に旅行した時にはバスがなくて閉口したそうな。理由は県ぐるみでタクシー会社を抱き込んでいるとかいないとか....それにこの土地では夜遊びのお金をタクシーの運転手さんに払って、行くべきところに誘われるという幻のシステムがあるのだと。
まあそんな噂なぞはどうでもいい。



カラフルな外観のパチンコ店外壁の虹は錆び、何の音も漏れてはこない。
大型観光ホテルの佇まいは、都心によくある和風割烹旅館風ラブホテルの、わざと地味な外観に似ている。無人の展望エレベーターが黙ってスーッと階上に昇ってゆくのが見える。


門前に光る看板には『ワイン風呂』だと。温泉、関係ないじゃないか
いくつかの『温泉病院』と名付けられたリハビリ施設や、人工滝だけが立派な観光ホテルの長い長い門前を幾つも過ぎ、足が棒になりかけた頃。やっと寂れた飲屋街の固まってある場所を見つける。
『石和ロマン館』と赤い飾り文字で書かれた長屋式テナントにはもう秘宝館めいたものはなく、数件のシャッター閉ざしたスナックが入っていた。それも店名が剥げかけていてよく解らず。
雑然とした生活用具の中においてあるビールジョッキの形の看板、レースの暖簾、不意に通り過ぎるショートパンツの女性。



この街に一件だけあるらしいストリップ劇場には『OS館』の名とヌード女性の粋な壁画が描かれていた。砂利道の奥の駐車場のようなところにぽつんとある、その小屋掛け感覚がいい。
付近のスナックのデザインは極めてシンプルで、インパクトがある。緑とクリーム色で統一され、ひたすら『シドニー』、『シドニー』、『シドニー』と何個も看板出してある店の佇まい。
日本の酒は出さないぜ、この屋根の上の空だけはアメリカ西部の......あ、いや、シドニーだから違うか。
何でシドニーなんだろう。
『文字』という名の定食屋もある。
何で文字なんだってば。
『文字』の近くに、かんたんな地図看板があり『ヌードP』と書かれた表示。ストリップ劇場の駐車場のことか。


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濡れたエロスではない、渇いた慕情のでっかい哀しみが、夕暮れとともに襲ってくる。
行けども情感の乏しい曇天を背に、やけに暗がり深く、遊興施設廃墟の雑草だけが影絵と化している。
この歓楽地で、迎える人も迎えられる人も、一体何処に潜んでいるのか。
どんな時間帯にどんな道にひっそりと繰り出すのか。全く見えやしない。
寂れているとだけも言えない、絶対に無関係者を寄せ付けない見えない鉄条網のようなものを感じる。
何かに似ているこの感じ、ああそう、米軍キャンプの外堀を歩き続ける感じか。
夕空も渇き、晴れた日暮れとなっていく。
疲れて飛び込んだ喫茶店では、土地の水商売に従事する年配女性たちの低音の愚痴や悩みが色々部分的に聞こえてくる。
そのシガレット感、ジャズ感、いや盆踊り感、そして町内会感覚のMIX....



町外れの一軒のホテルの前には、ここで何をするのかがよく解る官能的な彫刻がある。
水晶なのかローズクォーツなのか岩塩なのかよく知らないが、妙に情欲を掻き立てるとても美しい桜色の石が、もつれ合う姦淫途中のバッカスと乙女の像の足下に置いてある。
お隣は、もうシャッター閉めた、だだっ広い空き地の中にぽつんと立つ水晶屋。
夢の時代を過ぎ、夏草に多い茂られた何かの跡地には、オーバル型の禿果てた看板がそびえ立つ。



よく見るとカラオケボックスだったらしく、崩れたブロック塀に裏返した料金表だけが残っていた。
その場所が、今まで歩いた中では一番好きだ、と思った。
空き地になったならまた新しい建物を建てればいいのだけれど、そうではなく、風向きなのか運命なのか光の具合なのか、「もう取り返しがつかない」というオーラを放っている場所というものが確かに存在する。何度建てても、何の施設がそこに来ても、いずれそこはまた「つわものどもが夢のあと」の状態に自然と風化してゆく、というような。


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私達の前方で不意にセダンが止まり、中から、白の薄手の妙に色香のあるセレブスーツ着た中年女性がハイヒールをカツッとならしながら飛び出してきた。
数メートル私達の前を香りを振りまきながら歩いているので、何処へ何しにいくのかじっと見ていると、不意にに道を渡り向かいの民家の門前、「きゅうり 100円 お金はココ」とかかれた段ボールの前に走っていき、無人の銭箱に小銭を落として胡瓜をもらっていった。
ああ、やっと何か、凄く、こういうなにげない風情こそがエロいなあ、と悦に入る夕映え。
by meo-flowerless | 2011-08-06 01:29 |