画家 齋藤芽生の日記 Twitter/ @meosaito


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雪の日

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最も多忙な時期に大引越ぶつける自分も愚かだが、
この大変さときたら。
元いた場所のすぐ近所に引っ越したのだが、トラックニ台分の本屋ら資料やらガラクタに、運送屋のお兄さんが一言「心が折れた」と、ため息つきながらダンボールを運ぶ引越しだった。
荷をつめるには力が要らなかったが、
開墾し、新しい家具を買い、設置し、位置をあれこれ移動し、莫大な量の荷物をつめなおすのにこんなに体力消耗するとは思わなかった。





それでも、冬木立の丘が見え、それでいて階下は小さなコンビニ、バス停から二十歩で駅から徒歩十分、4ldkの良環境。実家から五分。角部屋の大きなl字型のベランダのすべてを照らすように日が昇り日が沈む、そのすべての日当たりが差し込む部屋。
新しい気持ちで生活と製作にのぞむべく、来る日も整理に追われる。
とはいえ、何か若いころのように、心細く、戸惑いも多い日々。


仕事と荷物整理の合間。
深夜家に帰り着くと、今にも降り出しそうな雪の前の夜空の、放電的雰囲気。
私の疲れをよそに、相方が犬のようにはしゃいで、
「雪が降り出すまで窓を見ながら待つので全部の部屋の電気を消して」という。
布団のしき方も変え、寝ながら夜空が窓から見えるようにし、流星群待ちみたいに雪がちらつき始める瞬間を待つ。


結局二人ともうつらうつらし、目覚めた朝にはようやく外はそこそこの銀世界に化けていた。


雪が降ったので、つかの間の休日気まぐれに旅に出た。
多摩の山間の渓谷の駅まで、三十分ほど電車を乗り継ぐのだが、雪のせいでいくつもの県境や国境超えていくような気持ちになる。


橋の上から見る渓谷の水は冷たいはずなのになぜか温泉地のぬる湯のような温度に見える。
白鷺や鵜が佇む絵の中の世界。
町全体が忘れられたよろず屋の廃墟のような、片田舎の県道沿いを歩く。
骨董屋になぜか上がれといわれ、網で餅を焼いてもらう。
相棒は、賽の河原のように極彩色積み上げられたナンデモ商店で、その地域の守り神である稲荷信仰の五色の旗を買った。


軽いはずの雪が水面を通過して水の底に沈んでいくのを、見ているような気持ち。
自分を取り巻くすべての無縁の者に、堆積され、埋められるような静けさ。
時計屋の直す秒針の先に、役にも立たない奇妙な魔法を見る心持。


空耳の八代亜紀が囁く、愛の終着駅。
「愛の迷いじゃないですか......」


「逃避行であっても、その行程を全速力で走るやつがいたら俺は信じられる」
と相方が帰りの踏切で言った。
きっとそれはもう逃避とは言わないのだ。と思った。


積み上げるのではなく流れてゆくようなことこそがリアルな、そんな愛の形もある。
私たちは。流れながら、モノを生み出すので、精一杯で、こんがらがりながら、嵐のまま、一生を終えるだろう。
新しい生活の、新しい家具の、新生活のにおいのすべてに戸惑いつつある二人は、
結局新しい家の玄関を出、
やはりいつものように当てもなく流れ歩き、目的もなく景色に巻かれ、
水面に、雪のかなたに、道の果てに、
またそれぞれ別の心の持ち物を棄て、拾い、さまよっている。
by meo-flowerless | 2011-02-11 22:17 | 日記