画家 齋藤芽生公式サイト http://www.artunlimited.co.jp/artists/meo-saito.html
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ライフログ
隅田川新名所展制作記

この美しい会場サインを見よ.....!完璧だ....
展覧会の展示準備を、今さっき終えて帰還した。
一つの展覧会として観客にどんな感動を与えられるか。それはわからない。
展覧されているものの裏側まで見せるわけではないので、現場の熱気は展示の感想とは全く関係ないだろう。
が、
それはそれで別として、
この企画を通して私が経験したことは、かつてない種類の充実感のある出来事だった。
ここで出会った人間の力に背中を押されて、
渇いていた最近の自分に、びっくりするような潤いのスコールを浴びさせてもらった気がする。
この夏、隅田川流域をフィールドワークした自分なりの旅の眩しさと合わせ、今展覧会の経験は自分の秘かな自信と宝になるのだろう、と思う。
久しぶりに、芸大に入って(勤めて)よかったと思った。
モノを作るのはやはり楽しい。しかもいろんな人と。
長い時間を一緒に育ってきた後輩も私も、成長して大人としての責任を一緒に課せられたり、
また、あの日学生だと思っていた人びとが誰よりも頼りになる右腕になってくれたり、
まだ子供だと思っていた今の学生達が、作品に関わる全ての所作で見る見るうちに成長して行く様を見たりしていると、
感動してしまった。

隅田川新名所物語展の舞台となったのは、浅草の東本願寺、慈光殿というセレモニーホール。
普段は、ありがたい法話を檀家の方が聞いたり、葬儀や各種儀式が執り行われる厳粛なホールなのである。
神聖な場所でありながら、勇気ある決断!?で、私達モノツクリの発表の場として東本願寺は門戸を開いてくれた。
ビシッとしたカーペット貼り、釘打ちなど出来ない綺麗な壁の、だだっ広い空間。
初めて見せられたときには、正直、まだこの規模の展示を開催することはイメージできなかった。
が、一気に想像がくつがえったのは、デスクワークでもコンピューターでも現場の力作業でも設計でも万能の事務局のNさんが一言、
『仮設壁を建てないと大掛かりな展示は無理ですね』と言ったときだった。
『でも建てるって、誰が?』
『僕がやります』
法人化して以来、芸大ものんびりと優雅な国立風吹かせていられる余裕もなく、
とにかく社会貢献するなり業績を目に見える形で上げるなり、しない限り、国からの予算は頂けない。
そんな訳で昨今の我が大学のアートプロジェクト熱、企業タイアップ熱、イベント熱には正直、就任したばかりの私は、全く恐れをなしている。
半強制的にプロジェクトへ参加させられる学生の負担も漏れ聞こえてきたり、
科の全ての仕事を一手に引き受けながら、その上プロジェクトの総指揮もまかされ休日返上で重労働している助手を見ていると、
もうとにかくプロジェクトやイベントを無闇に生み出そうとする大学の現状が嫌で嫌でしょうがなかった。
常勤の私は少なくとも助手よりは絶対的に働かなくてはならないので文句言えないが、
それでもこの仕事の量と会議の量と、有無をいわさず年間の予定をイレギュラーにどんどん入れ込まれる強引さには、閉口するばかりだった。
そんな現状の中、なるべく避けたいと思っていた「プロジェクト担当」のお鉢が早速私に回ってきた。
五月。一週間古美術研修旅行の引率で関西に行っている間に、何やら偉い先生からメールで委員指名のお達しが来ていたが、帰ってきたまま、しばし気づかなかった。
五月中旬、やっと自分が巻き込まれている事態がわかり、しかもプロジェクトの総決算である展示期間が十月からだという時間の短さに、失神、失禁しそうだった。
いや、もはや失踪したかった。
それでも私のような新米教員が「いやでーす」と投げ出す訳になんか行かず、泣く泣く始めるしかなかったアートプロジェクト。
私に与えられたミッションは、「物語」をキーワードに、隅田川界隈の地域で何か芸術的な社会活動をしろ、という事である。
その企画の骨子・予算立て・メンバー・進行・実行を、数十人の先生がそれぞれ一人ずつプロジェクトに別れ、或はグループにわかれ、全て自分たちで決めなくてはならない。
私はグループではなく一人でまかされたので、こりゃあ自分に出来ることと背伸びしないことが肝要だと、腹をくくった。
それで、自然に脳裏に浮かんだ企画が「名所図会」展だったのである。
私には『地霊に宿られた花輪』というシリーズ作品がある。
それは日本各地の地名をタイトルに冠した、祝祭の花輪意匠を使った、私なりの名所図会である。
自分が旅したことのある地、通りすがった地の記憶の色彩や視野の断片を、花輪の装飾部分に意匠化して凝らすというシリーズである。
「名所」というテーマならまずとりあえず自分が興味を以て取り組めそうだった。

展覧会なのだから、出品者を集めなければならない。
他のプロジェクトの先生方は、区か学校が派手に員数を集めたり募集を掛けたりしてくれるというイメージが多少あったようだ。
ただ私は最近の自分の科の有様からして、これは待っていても学生はなかなか集まらないとハナから踏んで、徹底的に、このテーマを噛み砕けそうな学生を、自力で探した。
卒業制作アルバムや過去の授業の作品写真と日常の会話などから推察し厳選し、かたっぱしから、電話とメールで学生や助手に声を直々に掛けた。
逆に、だから入れ込めたのだと思う。
プロジェクトの重負担を知っているので通常は参加に逃腰なムードが漂う中、
意外にも断る人は少なく、最終的には3人の断りしか出さず、15人以上が話を素直に受けてくれた。
有能で美しい作品を創る二人の助手は他の研究室の人だったが、口説きおとし、協力をもらえた。
一度話を受けてから、彼らのリーダーシップ、制作、雑務の全ての仕事量は計り知れなかったが、
奇跡の高速ハイテンションでプロジェクトを駆け抜けハイクオリティの仕事を保ち続け、学生を引っ張ってくれた。
そして、なにつつがなく、学生が出品者として主役になれるような準備が、着々と彼らのもとで整えられたのである。
またこの企画では展覧会だけではなく、名所を紹介する江戸の「名所図会」に習って、旅のガイドような形で、作品と観光をかねたガイドブックを制作した。
会場で無料配布という大盤振る舞いだが、編集を担当したデザイン科のF先生と、デ科大学院のH君のこだわりで、絶対にハイクォリティなものを目指そうという結論に至った。
デザインチームにとっては多分、悪夢のように大変で煩雑な編集やマッピング作業だったのだと思う。
いろいろと、わたくし企画者の意向があっても所詮口だけで、実作業ばかりはデザイン専門の人びとにしか託せないのであり、結局全ての編集の進行をお任せしてしまった。
いやしかし、本当にチーム一同、そして事務局のNさんには物凄い負担をお掛けし....大変だったろうに、みな文句や愚痴を腹の底にしまいつつ、本当に最後まで熱気の中、現場制作していただいた。
恐ろしい完成度の会場の壁の施工は、出品者ではない研究室の大学院生達が、Nさんの指揮のもと、
神のような現場技術で二日であっという間に仕立ててしまった。ライティングには先輩であるAさんが駆けつけ、専門的知識のもとどんどん灯環境を整えてくれた。
この人たちの手でなら、豊臣秀吉の一夜城も一夜で建つわ、と思った。
この現場の壮絶さを見て学生もダラダラする訳もなく、また大学院・卒業生・助手・教員から大学二年まで入り交じっての展示で、皆相当プレッシャーがあったらしく、緊張感のみなぎる中で展示作業が進んで行った。
私にとっては、戦慄を覚えるくらいの会場作りの鮮やかさだった。
それに比べ自分の作品が何だか軽くさえ思えてきて、若干今もヘコんでいる。
学生達は、三回のフィールドワークを通して、すぐに仲良くなった者もいた。
展示の最後は学年入り乱れて作業を手伝い合い、共同で動いた。
ぶちぶち文句もいわず皆良く搬出入も宣伝交渉もこなしてくれた。これも、私なんかよりずっと上手に交渉成功させて帰ってきた。

展覧会を一から作るって、本当にこんなに山ほど仕事があるのか.....
愚痴を言う暇も余力もないほど、本当に全部をやらなければならない。
いや、正確にいえば、数えきれぬ人にあらゆることをやってもらわなければならない。
それを思い、配慮するだけで既に、何もしてないないときでも、この五ヶ月神経が抜けなかった。
身体と手と足と頭と全部フルに動かす人々の仕事ぶりを見て、そして自分も現場で動いてみて、はじめて実感できる緊張というものがある。
頭でっかちなだけじゃ、喋りの場はこしらえられても、モノを美しく見せる場は作れない。グサーっ...とくるほどそれを学んだ。
そして何より、「人」は大切にせねばならんと思ったし、真摯な人たちを尊敬し愛さずにはいられないと思った。
感動とか感謝とかいうことばは死語にしてはいけない。このような人たちと一緒に仕事できる限り。
この人たちとほんとに心の底から「打上げ」したいわ!企画は佐貫がやるってさ。絶対やりましょう。
あああ....でも来年もまた企画展担当やれと言われたら、
「もう、この胃が消滅してしまいそうなのでお断りします」と言っちゃうかもしれないな....
これを最後までお読みの奇特な方は、壮絶な展示現場を想像したり、ディープなリサーチ旅記を読んで頂いたりすると、
展覧会が別の角度から見えるかもしれません。是非おいで下さい。

GTS(藝大、台東、墨田)観光アートプロジェクト
隅田川Art Bridge2010関連企画
「隅田川新名所物語」展
2010年10月20日(水)〜11月6日(土)
東本願寺慈光殿2F(東京都台東区西浅草1-5-5)
概要
東本願寺と東京スカイツリーを結ぶ隅田川両岸地域に展覧会場を点在させ、「記憶、場、歴史」のテーマに沿った企画展を、東京芸術大学、台東区、墨田区が共催。東本願寺エリア、浅草エリア、隅田公園エリア、北十間川エリアに大きく区分されたアートエリアに複数の作品やプロジェクトが展開されます。地域の歴史をテーマにした芸術作品で各地域を結び、回遊美術館を出現させます。
「隅田川新名所物語」はそんなプロジェクトの中の展覧会です。
隅田川をはさんだ台東区、墨田区は歴史の逸話にあふれる街です。様々な絵画や文学の舞台にもなりました。これは、そんな隅田川界隈を学生や作家が歩き、新たな視点で隠された「名所」を見いだす試みです。それぞれの学生出品者の探索、取材、調査から感じたこの地域の「歴史の断層」を、絵画、立体、マケット、ドローイングなど様々な手法で作品化してゆきます。
by meo-flowerless | 2010-10-20 04:07 | 絵種

