画家 齋藤芽生の日記 Twitter/ @meosaito


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浅草潜伏 最終日

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気の狂うような午前一時の太陽。
誰も来ない銭湯の観音様人魚様の乳首が、珊瑚が、雫に光っている。
涅槃のような浴槽で一人湯浴みする。

観音温泉、真昼の停滞。
蔦に覆われた甲子園球場的外観の濃厚さにも増して、
その明治大正昭和の区別つかない恐ろしく古い内部は、物凄い。

番台のおばさんに写真撮影の許可を頼むも、
耳が遠いらしく、全く別の返事をにこやかに返される。
おばさんは休み時間になったのか、
脱衣場に入ってきて私の裸の横で他愛もなく昼寝している。

一体本当にここは地球の何処か。誰に私を見つけることが出来るか。
俗世のもっと裏側のもっとポンチな俗俗世で、
カラダ駄目になるまで遊んでいる。



昼飯は雷門付近の井泉で、カツサンドを食す。
シンプルなウーロンの瓶とコップ。
演歌のように聞こえるポップスの軽薄有線。
小料理屋のようにこぢんまりした卓上に肘付き、
しばしグッピーの水槽見つめながらこの五日間の我身を振り返る。

この旅、人に聴かせられるような際立ったこと何一つしなかったが、
自分の人生の何かを決定的に決めた。
私はいつか本当に宿無しで生きて行くかも知らん。
少なくとも終生心は無目的にさすらうのだろうという予測が、
白昼の饐えた時間の中にジュッと焦げ付いて残った。

叩き込まれたことが確実にある気がする。
何人も観た、際立って異なる風体の老人や老女のたたずまいに、だ。
襤褸は着てても、生きることの尊厳だけを精神に一本柱として保ち、
身体はよろけつつ、動かなくなりつつも、毅然とそこに居る人たち。

カメラを向けることは出来なかった。
かつて札付きの悪であったろうアロハの壮年男が、電動式車椅子をバイク並に暴走させて過ぎるストリート、
蛙のような奇相で何度も何度も美空ひばりの唄芸を織り込む、落語家の汗。
地に埋もれそうなほど身体が草臥れきって座るシューシャインガール超老女の、白く塗った人形のような開かない瞼、その横に張り付く「カメラ、立ち止まり、ケータイお断り」と書かれた段ボールの矜持。
芸人御用達という喫茶の内部の、呂律回らない&沈黙&独言系、真昼の客の会話。
ピンク色のプードル写真時計を飾る一坪屋台時計屋の、来る日も来る日も同じ場所に座る親父の姿勢。
急性アル中で痙攣死しかけてる人をかつて見たカラオケボックスに、猛暑の中ひとり五日も通う自分という女。

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午前は蔵前でさんざん玩具問屋を見、狂ったように浅草でかんざしを物色し、
百円ショップで思いついてタオル買って、真昼の異次元湯浴みをし、
違う喫茶に三回入り、ノートに日記書きまくり、
演芸館で手品と講談と落語を一席ずつ立ち見して笑い、
アイスを食べながら完全にピンぼけ放浪し、
どうにもこうにも行場が無くなった時久々に伴侶からの電話が。
真昼のこの付近を通ったから電話してみたそうな。
おなじようなことしてら。宇宙遊泳者同士のニアミス。
彼も仕事に戻っていると聴き、何となく自分も我に返り帰路に。

学校の涼しいアトリエに帰還し同僚の顔観たら、自分の「名」があることを思い出した。

ブログを読み返すと、浅草潜伏期間、この日記が精神的な命綱だったように思う。
猛暑のせいかあの土地の魔力のなせるわざか、孤独がそうさせたか、
一種の恍惚感のあるバッドトリップが脳内で怒っていた。
他人様にはどうしても伝わらぬ、なんらかの人生観の変化おこり、
見たこともない花が開き始めた、危ない五日間であった。
by meo-flowerless | 2010-07-23 23:27 |