画家 齋藤芽生の日記 Twitter/ @meosaito


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浅草潜伏 三日目

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浅草界隈は、音が良い。
にぎやかな音の向こうに、確実に「荒涼」が広がってる。

もし音が違ったら、この街はただの平凡な観光地に見えてしまうかもしれない。
作られたストリート用の音楽よりも、
道行く人の気配や会話、店々が勝手に垂れ流している毎日の真昼のラジオ、のほうが強い。
抜き差しならぬ日常の音、のほうを町の人が選んでいるのだ。



そういう土地が好きだ。
BGMは、押し付けられてはいけない。
不慮の出会いのように、ゆきずりの人のように、音というものはあってほしい。

三日も四日も同じ街で、目的も探し物も無く風景の中彷徨している。
自分の五感が一本の映画の撮影機のように思える。
おそらく私はこの旅で聞いた音のこと、
孤独な自分の無音な意識を、
かなり詳細まで忘れない。

熱帯夜を歩き回る。
映像を良く撮るせいか、縦に揺れぬよう、平行移動でそっと歩く癖がついた。

音の絵巻のように、店々の中のカラオケの曲が歩くたびに入れ替わってゆく。
吉原付近の暗い「二人でお酒を」。
ものすごく音痴な東本願寺裏の谷村新司。
丸窓から浮かび上がった横顔男のチャゲ&飛鳥。


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鈴虫の声か、と思う涼しげな瞬間が何度もあるが、
それはたいてい料理屋裏できしむ冷房の室外機だった。


ふと『タブー』ザビア・クガートのバージョンが、夜闇を裂いて聞こえてくる。
なんてこの町に合っているんだろうと思う。
それは一瞬でやんで、男が何かを教える澄んだ声がした。
通りすがった古いテナントビルのどこかで、ダンスのレッスンをしている気配がした。


暗い初音通りの藤棚を抜けると、
人気のない商店街のほうから、メガホンか何かで頻りに真面目に語る男の声がしてくる。
角を曲がると、無人のアーケイドに長々机をならべ、
老人たちが恐ろしく生真面目に、何かの「勉強会」をしていた。
こんな夜に、マイクかメガホンで何の講義だか知らないが、
いたってまじめで、
その人たちが一斉に取りすがりの私を注視するので、閉口した。

花やしきの歓声は、夜の亡霊のようでよい。
昼にはスカスカの邦楽がいつも流れている。
妙にそこだけ荒涼とした、和ウェスタンな街角。
微風の中、遊園地はあるかないかのように存在が淡い。
シューッ....サーッ....という機械の排気音が不穏に夜空中響き渡っている。
近くのラブホテルにも、浄化槽にも、観音温泉の看板にも、
夜のスカイライン一帯に反響しまくって、
空に波打ち際があるみたい。

夏でも木枯感がある土産屋通り、
空にバナナ色のネオン花が瞬く。
カメラは首からぶら下げたまま、ひたすら音のするほうにつられて、
目を閉じながら歩くかのように、徘徊する。

疲れるとやけくそになって、またカラオケボックスに入る。
もう声も出ないし歌いたくもない。
でもここまで毎日行くのなら、今日も行かなければだめだと思う。
国際通りが見下ろせる空中バルコニーのような角部屋で、夜景を見続ける。
チープで空っぽのウタなし歌謡が、観音の光背型ネオンの点滅にあわせ、響き渡る。
虚無感でお腹一杯になったので、満足して宿に帰る。

もう今宵がこの旅の最終夜。
厩橋から聞こえる高速の救急車の音ともお別れ。
by meo-flowerless | 2010-07-22 23:57 |